ヘッジ会計
ヘッジ会計とは何か
企業が保有している金融商品がもつ価格変動リスクや金利変動リスク、為替変動リスクなどの相場リスクに対し、リスクにさらされている取引(ヘッジ対象)と正反対の動きをする取引(ヘッジ手段)を用いて相場変動リスクを相殺し、これらリスクを回避することヘッジ取引といい、一定の要件を満たしたヘッジ取引に対して適用される会計処理のことをヘッジ会計といいます。
ヘッジ取引はヘッジ手段としてデリバティブ取引が用いられますが、通常のデリバティブ取引は原則として決算日に時価評価を行い、当期の損益に反映するのに対し、ヘッジ手段としてデリバティブ取引を用いた場合、上記のような方法で会計処理を行うと、ヘッジ対象に関わる損益認識時期と、ヘッジ手段の損益認識時期にずれが生じてしまい、ヘッジ効果を財務諸表に反映できなくなるおそれがあるため、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益を同一会計期間に認識する「ヘッジ会計」を行うことで、ヘッジ取引の効果(=ヘッジ対象から発生し
た損益をヘッジ手段から発生した損益によって相殺しているという効果)を適切に会計に反映させることが可能になります。
ヘッジ会計の適用要件
ヘッジ会計が適用される要件には、大きくはヘッジ取引開始時の要件とヘッジ取引時以降の要件の2つがあります。
<ヘッジ取引開始時の要件(事前テスト)>
企業会計基準委員会が定めた「金融商品会計基準」では、ヘッジ会計の事前要件として、ヘッジ取引時において、その取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが客観的に認められることとあります。
ヘッジ会計をなぜ行うのか、ヘッジ目的のデリバティブ取引を行うことでどのような効果が得られると想定されるのかなどを、あらかじめ文書にして示しておく必要があり、具体的には以下のいずれかの方法に該当することが、ヘッジ会計適用の要件となります。
- 当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること
- 企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること
<ヘッジ取引時以降の要件(事後テスト)>
ヘッジ取引時以降の要件としては以下の2つがあり、いずれかに該当することがヘッジ会計適用の要件となります。
- ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態
- ヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定され、その変動が回避される状態が引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果が定期的に確認されていること
以上は金融商品会計基準が定めるヘッジ会計の適用要件の概要ですが、法人税法でも会計基準に類似したヘッジ会計の適用要件として帳簿記載要件というものが定められています。
帳簿記載要件の趣旨は会計基準の趣旨と類似しており、金融商品会計基準におけるヘッジ会計の適用要件と法人税法における適用要件は類似した部分もありますが、完全には一致していないので注意が必要です。
ヘッジ会計はどのように行われるか
ヘッジ会計には以下の4の方法があります。
1)繰延ヘッジ(原則的方法)
時価評価によって発生したヘッジ手段の損益を、発生時に認識せず、ヘッジ対象の損益が認識されるまで繰り延べる方法です。
例えば、ヘッジ対象の金融資産を取得した資産を翌々期に売却した場合、ヘッジ対象の金融資産は当期と翌期は評価損益を計上せず、売却時に評価損益を計上し、ヘッジ手段のデリバティブ取引については当期と翌期は評価損益を純資産として繰延べ、ヘッジ対象の金融商品を売却した翌々期に、純資産として繰延べ計上していた金額を評価損益として処理します。
2)時価ヘッジ会計
本来は時価評価差額を損益計上しないヘッジ対象の相場変動を、損益に反映させ、その損益とヘッジ手段に関する損益とを同一会計期間に認識する方法ですが、時価ヘッジが適用されるのは、ヘッジ対象の時価を貸借対照表価額とすることが認められるものに限定されるため、金融商品会計基準の規定との関係から、時価ヘッジの対象となり得るのは「その他の有価証券」のみと言えます。
3)振当処理
為替予約等により固定されたキャッシュ・フローの円貨額により外貨建金銭債権債務を換算し、直物為替相場による換算額との差額を、為替予約等の契約締結日から外貨建金銭債権債務の決済日までの期間にわたり配分する方法。外貨建金銭債権債務をヘッジ対象、為替予約等をヘッジ手段とする場合に、特例として認められています。
4)金利スワップの特例処理
期末において金利スワップ(※)の時価評価をせずに、金利スワップに係る金銭の受払の純額等を利息として処理する方法。金利スワップが、金利変換の対象となる資産もしくは負債とヘッジ会計の要件を充たし、なおかつ、その想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受払日等)および契約期間が、当該資産か負債とほぼ同一である場合に特例処理が認められます。
※金利を対象とするデリバティブ(金融派生商品)取引のひとつで、同じ種類の通貨で異なる種類の金利(固定金利と変動金利など)を取引の当事者間で交換する(スワップする)取引で、通常、金利上昇リスクや金利低下リスクのヘッジとして利用されています。金利スワップでは元本交換を行わず、金利部分のみを当事者間で交換します。