減損会計
減損会計とは何か
減損会計とは、企業は保有する固定資産から得られる収益が低下し、投資額を回収する見込みがなくなったときに、一定の条件下において固定資産の帳簿価額を回収可能額まで減額する会計処理のことを言います。減損処理を行うことになった資産は、帳簿価額の減額と同時に、損益計算書に損失として計上しますが、この損失のことを減損損失と言います。
固定資産の帳簿価額を減額する会計処理としては、減損会計のほかに臨時償却がありますが、減損会計の原因が「収益性の低下」であるのに対して、臨時償却の原因は「予見されなかった原因等(例.新技術の開発)による耐用年数・残存価額の不合理」である点が異なります。
減損会計の対象となる資産は何か
減損会計の対象となる資産は、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産の3つです。金融資産、繰延税金資産等については、他の会計基準で評価方法が定められており、減損処理の対象外となります。
<有形固定資産>
企業が保有する土地や建物、生産設備や工具器具、車両などが有形固定資産に該当します。製造業の企業が将来の売上の増加を見込んで工場のライン(棟)を増設したものの、想定通りの収益が上げられないというケースでは、対象となる有形固定資産の減損会計という方法で処理をするのが適切です。
<無形固定資産>
ソフトウェアやのれん、商標権や借地権などが無形固定資産に該当します。M&Aで企業を買収した際に、買収された企業の簿価と買収価額の差額は“のれん”として計上されますが、M&Aで想定していたほどの収益が上げられないことが明らかになった場合は、のれんを減損会計で処理し、特別損失として計上します。
<投資その他の資産>
株式や不動産、長期前払費用など、企業が投資を目的に保有している資産が“投資その他の資産”に該当します。投資を目的として株式を購入したものの、株価が下落して回復が見込めないという場合には、投資額を回収できないと判断したタイミングで、株式の減損処理を行う必要があります。
減損会計の手順
減損会計は大きくは以下の5つのステップで行われます。
- 資産のグルーピング
事業に使われている固定資産は、工場の生産ラインのように、通常、複数の資産が一体となって使われています。減損処理は、独立したキャッシュフローを生む資産のグループごとに行う決まりになっており、一体となってキャッシュフローを生み出す複数の固定資産の範囲を特定することが重要であり、これが最初のステップとなります。 - 減損の兆候の把握
次にステップ1で合理的に判定された資産グループにおいて、減損の兆候が生じているかどうかを確認します。具体的な例として、以下のような事象が該当します。
・資産が使用されている事業の営業損益または資金収支が継続して赤字である。
・営業損益や資金収支あるいは資産の価値が著しく低下するような資産の使用方法の変化がある。
・資産を使用している事業の経営環境が著しく悪化した。
・資産の市場価格が下落した。
これらのような減損の兆候が見られない資産グループは減損の対象とはなりません。 - 減損損失の認識の判定
減損の兆候ありと判定された資産グループについて、最終的に減損会計を適用するかどうかを判断します。減損損失の認識は、割引前将来キャッシュフローの総額と帳簿価額を比較することで行います。
割引前将来キャッシュフローとは、固定資産を将来にわたって使用することにより事業で回収できるキャッシュの総額を言います。たとえば、ある資産グループが将来10年間にわたり毎年100万円のキャッシュフローが回収可能と予測される場合、割引前将来キャッシュフローは1,000万円になります。これに対してその資産グループの帳簿価額が1,200万円であれば、割引前将来キャッシュフローの総額よりも帳簿価額が200万円大きいため、減損損失を認識することができます。 - 減損損失の測定
割引前将来キャッシュフローの総額が帳簿価格を下回り、減損損失を認識すると判定された資産グループについて、使用価値と正味売却価額のどちらか高い方の価額まで帳簿価額を切り下げ、切り下げた金額を、減損損失として計上します。正味売却価額とは、減損損失を確認している時点における時価から売却や処分にかかる費用を控除した金額のことです。一方、使用価値は、将来に渡って資産グループに含まれる固定資産を使用し続けた場合に得られるキャッシュフローの総額です。この場合の総額は、資産によって得られる「割引後」のキャッシュフロー総額となります。 - 会計処理
減損損失は、資産グループ全体の金額のため、対象となる資産が1つである場合を除き、減損損失をグルーピングされている各資産に配分します。配分処理は、帳簿価額に基づいて比例配分するなど、合理的な方法で行う必要があります。減損処理の仕訳には「直接控除方式」と「間接控除方式」の2つの仕訳方法があり、直接控除方式が原則ですが、間接控除方式を用いることも可能です。
・直接控除方式
減損金額を資産の取得価額から直接減らす方法で、借方が減損損失(PL)、貸方が固定資産(BS)となります。
・間接控除方式
間接控除方式では減損損失は取得価額から直接減額させずに「減損損失累計額」という勘定科目を使用し、借方が減損損失(PL)、貸方が減損損失累計額(BS)となります。