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資本主義~資本主義の先へ~ パーパス経営の実現へ向けて

「BeyondTheBlack TOKYO 2022」レポート#3
シリーズ3回目は一橋大学ビジネススクール 国際企業戦略専攻 客員教授 名和 高司氏による基調講演です。

今なぜ経営に「パーパス=企業の存在意義」が重視されているのか。
多くの企業が直面しているこの問いかけに、大学で教鞭をとる傍ら味の素やファーストリテイリングなどの名だたる企業の社外取締役を務め、パーパス経営について様々な媒体で発信してきた名和氏に、パーパス経営で先行する企業の事例と、パーパス経営を実現するために経営層が必要な視座について語っていただきました。

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一橋大学ビジネススクール 国際企業戦略専攻 客員教授/京都先端科学大学ビジネススクール 教授 名和 高司 氏

【アジェンダ】

なぜ今、パーパス経営か(Why)

なぜ今、パーパスなのか。その問いに対する答えが、名和氏の提唱する新しいSDGs(※)である。

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<S:Sustainability>
従来のSDGsの17の目標に企業が取り組むのは当然として、競争優位を生むためにはその会社独自の18番目のゴールが必要。

<D:Digital>
社会課題の解決は収益化が難しく、生産性や創造性の向上が必要であり、そのためにはデジタルを活用した変革(X)が必須。

<G:Globals>
新型コロナの感染拡大や米中摩擦、ウクライナ侵攻など世界の分断が進んでいる中、国境は当然ある(borderful)と認識し、地経学(Geo-Economics)に配慮したグローバル経営が必要。さらに、18番目のゴールが必要な理由として、3つの市場の変化を指摘した。

1.顧客市場の変化=ライフシフト
  人生100年時代と言われる中で、個人消費が社会の持続性を強く意識したものへと変化。
2.人財市場=ワークシフト
  一か所に留まらないワークスタイル。会社は仮の居場所に。企業は人を惹きつける努力が必要。
3.金融市場=マネーシフト
  ESGやパーパスを重視した投資の増加。

「SDGsの17の目標はやって当たり前。社会から存在して欲しいと認められるためには18番目のゴール=その会社ならではのパーパスが必要。それが、パーパス経営。」

※日経新聞掲載教室 2020.5.13
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO58986900S0A510C2KE8000/?unlock=1

パーパス経営の実例(What)

トヨタ自動車、ソニー、 ファーストリテイリングの3社をとりあげ、トヨタ自動車とソニーではパーパスがパーパス足る理由について、ファーストリテイリングではパーパスに基づいたアクションプランが例示された。

◇トヨタ自動車 「幸せを量産する」
これまでのトヨタの考え方とパーパスを整理したフィロソフィーコーン(※)と、それを具体化したトヨタの木(※)が紹介された

◇ソニー 「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」
 ”Kando”価値創造方程式(※)で6つの事業の必要性、存在意義を説明。この価値創造モデルにより、ソニーの企業価値に対する株式市場の評価は、コングロマリットディスカウントからコングロマリットプレミアムに変わった。

◇ファーストリテイリング 「服を変え、常識を変え、世界を変える」
パーパスに基づいたアクションプランである“LifeWear(※)”と、その具体的な取組みのひとつである「デジタル化による新しい産業モデル(バリューチェーンからバリューネットワーク(※)に)」が紹介された。

それぞれの会社の事業内容は全く異なるが、この3社に共通して言えるのは、パーパスが事業の存在意義を説明し、事業活動とリンクしていることである。
各社のパーパス経営に関しては、自社のパーパスに込めた思いや、事業価値につなげるストーリーが各社のホームページに掲載されているので、そちらも併せて参照いただきたい。

※フィロソフィーコーン:https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/philosophy/
※グローバルビジョンと木:https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/global-vision/
※首相官邸HP「企業関連制度・産業構造改革・イノベーション」会合(第5回)配布資料 12P:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/corporate/dai5/siryou2.pdf
※LifeWear:https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/news/2112021500.html
※バリューネットワークのイメージ:https://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/uniqlobusiness.html

パーパス経営の実践(How)

では、他の企業はどうやってパーパス経営を実現すればよいか。名和氏は「意思決定モデル」「価値創造モデル」「組織モデル」「実践モデル」の4つのポイントで解説した。
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意思決定モデル:社会的価値と経済的価値をいかに定義し、評価するか
パーパスの短期的な経済価値(PL)への影響は比較的イメージしやすいが、長期的な価値(資産の将来のPL価値)への影響をどう定義し、評価するか。そこでキーになるのが無形資産だが、それにはソニーのパーパスのような無形資産を具体的な企業価値につなげるストーリーが大切だと言う。
 
そして、無形資産の中でも重要なのが人財資産であるとし、人財資産を企業価値につなげる事例として味の素グループを取り上げ、真ん中にパーパス(組織資産=組織の価値観)があり、人財資産を起点とした企業価値向上サイクル(※)が紹介された。

※IR資料「味の素グループのデジタル変革(DX)」11P:https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/aboutus/dx/pdf/ajinomoto_dx.pdf

価値創造モデル:外部性を梃子とした「S⁴の経済」の獲得
そして、無形資産を収益につなげる上で重要になるのが“アセット”の持ち方である。

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今から10倍成長するときに、アセットも10倍にするのか。そうではなく、アセットを3層に分け、自分たちの強みに特化することが重要だと言う。そして事業化する上で、シュンペーターのイノベーションの定義が引用された。

 ・シュンペーターが定義するイノベーション
  「0→1」 : インベンション(発明)≠イノベーション。これだけだと事業価値はない。
  「1→10」 :事業化。市場を作れるか。
  「10→100」:世の中のデファクトになれるか。
 
日本企業はよく0から1を生むのがイノベーションと勘違いするが、シュンペーターはステージ3までを含めてイノべーションと定義し、これの実践例としてリクルートが紹介された。 リクルートでは事業開発モデルとして以下の3つのステージを定義している。
 
 ・ステージ1:世の中の不をアイディアへ(新規事業のアイディア)
 ・ステージ2:勝ち筋を見つける(誰の財布を狙うのか、その人はこっちを向くのか)
 ・ステージ3:爆発的な拡大再生産(世の中に広まるか、1,000億のビジネスになるか)
 
そして、1の段階で3までを視野に入れ、そのための条件を突き詰めて仕組を創ることで、ビジネスの成功率を高めており(※)、リクルートが手掛けるものは成功するという期待の高さが企業価値にも反映されている。

※関連書籍:リクルートのすごい構創力:https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/2020/9784532199869/

組織モデル
ここでは「融知型ネットワーク組織」と「クリティティブ・ルーティン」の2つの形が紹介されたが、いずれもイノベーションのネタが生まれる領域と、そのネタをスケール化(標準化)する組織という、通常であれば相反する2つをつなげる(ネットワーク/ルーティン)上で重要になるのが、パーパスによる求心力だと言う。
そして、ジョン・P・コッターのDual Operating System (※)を引用し、より具体的な組織論が展開された。

※関連書籍:ジョン・P・コッター「実行する組織」:https://www.diamond.co.jp/book/9784478028377.html

 
実践モデル:具体的な実践モデルとしては以下の2つのアクションが紹介された。

・パーパスワークショップ(パーパスを作る、浸透させる)
いろんな部門の人やいろんなポジションの人に、3つのテーマに対してなるべく具体的な思いを上げてもらい、整理する中で核になる強さを見つけてパーパスを作り、浸透させる。
  テーマ1「顧客」「顧客の顧客にとって」
  テーマ2「社員にとって」
  テーマ3「社会にとって」「地球(未来のこどもたち)にとって」

・パーパスOne on One
MYパーパスを従業員に自覚させるためのSOMPOホールディングスの取組み(※)。従業員の“WANT(心が動く瞬間)”と“MUST(解決すべき社会課題)”“CA(運命が与えた能力)”について、上司と部下が定期的にOne on Oneを実施する。

※日経ビジネスオンライン(2021.11.12):https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00946/

最後に、名和氏が企業改革のお手伝いをする際の3つのステップが提示され、本講演は締めくくられた。

  1. ありたい姿:どういう未来を作りたいかを「わくわく」「ならでは」「できる」の3つの条件で考える。
  2. 自社の課題:なぜ、やれてないのか。ここから入ると現状を肯定しがちだが、1があって現状を見ることで、問題を問題と認識できる。
  3. 変革の方向性:1と2による気づきがあった上で、デジタルを活用し、仕事のやり方を変える。いきなり “デジタルを入れよう”ではなく、1、2、3のステップを踏むことで、デジタルの活用の仕方が見えてくる。        

<スピーカー>
一橋大学ビジネススクール 国際企業戦略専攻 客員教授
京都先端科学大学ビジネススクール 教授
名和 高司 氏

BeyondTheBlack TOKYO 2022 の3つの基調講演・エグゼクティブ対談をまとめた
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