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歴史が教える「デキる経理担当者」3つの条件

「BeyondTheBlack TOKYO 2022」レポート#2
シリーズ2回目は、公認会計士で作家の田中靖浩氏による基調講演です。

田中氏は「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語」や「名画で学ぶ世界の経済史」、「教養としてのお金とアート」など、会計をベースにしながら会計の枠を超えた幅広いテーマで多数の本を執筆しており、基調講演では「デキる経理担当者の条件」について、3人の歴史上の人物に照らし合わせ、それぞれの時代の興味深いエピソードも交えながらおもしろおかしく語っていただきました。

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作家・公認会計士 田中 靖浩 氏

【アジェンダ】

世界の経済覇権の歴史は会計発展の歴史に通ずる

・コジモ ディ メディチ (1389 – 1464) イタリア 銀行家
・ジョセフ マロード ウィリアム ターナー (1775 – 1851) イギリス 画家
・ジェームズ オスカー マッキンゼー (1889 - 1937) アメリカ 会計士

田中氏は「デキる経理担当者」の条件を語るに際しこの3人の名前を上げ、3人の時代背景と会計の歴史の関わりから本講演をスタートさせた。まず注目すべきは3人の時代と国。

中世ルネサンス期のイタリア、産業革命のイギリス、フォードが自動車の大量生産方式を確立したアメリカ。これらは経済の覇権国の変遷を示しており、それは会計の発展の歴史にも通じると田中氏は言う。“経済が発展すると金回りがよくなる”、“金回りがよくなるとお金の管理が必要になる”、“お金の管理のために会計の制度が発明される” という理屈で、事実、会計の発展も3人の時代に一致する。

・中世イタリアで簿記が発明。銀行業もこの時代に始まる
・産業革命下のイギリスで減価償却などの複雑な利益計算方法が発明され、会計の専門家(会計士)や監査が誕生
・大恐慌後のアメリカでディスクロージャー制度が始まる。そして大量生産のビジネスを管理するために
「原価計算と管理会計」が発明される

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こうした制度の発展を踏まえて、デキる人間はどんな風にそれぞれの時代を乗り切ったのか、田中氏は3人のそれぞれの成功ポイントを孫氏の兵法の言葉になぞらえて話を進めていった。

コジモ ディ メディチ「敵の情を知らざる者は不二の至りなり」

ルネサンス繁栄の礎を築いたと言われる銀行家・コジモ。彼は情報を重視し、巧みに活用したことで稀代の成功を収めたと言う。当時の銀行は主に為替手形の手数料で稼いでいたが、コジモは自行の手数料の設定において、競合に負けないように欧州各地の支店から情報を集め、きめ細かいプライシング(ダイナミックプライシング)を実施し、競合の銀行に差をつけた。

また、支店の経営は支店長に任せながら、毎月会計帳簿を本店に届けることを徹底することで、分散経営でも成功を収めていた。敵の情報(現地の銀行の手数料情報)だけでなく、内の情報(支店の会計帳簿)も重視し、経営に活かしたコジモ。コジモに見るデキる人間の条件「情報を使いこなせるか、情報を武器にすることができるか。」これは今の時代にも通用することである。

ジョセフ マロード ウィリアム ターナー「実を避けて虚を撃つ」

ターナーはイギリスの絵画史上最高の画家と言われているが、ターナーの人生を見ると、孫氏の「実を避けて虚を撃つ(≒臨機応変に戦う)」という言葉を思い出すと田中氏は言う。ターナーは風景画として海や船の絵を多く描く中で、晩年には意外な絵を描いている。「雨・蒸気・スピード-グレートウェスタン鉄道(※)」という機関車の絵で、この絵が描かれた時代にまつわる話から、会計の発展、デキるポイントへと話は続く。

産業革命の最大のトピックといえば蒸気機関の発明。蒸気機関と言えば、蒸気機関車。そして、ターナーの絵に描かれている鉄道。この鉄道(事業)と会計には意外な関わりがあるらしい。

鉄道事業は土地の購入や線路の施設などの初期投資に莫大な費用がかかるため、それまでの収支ベースでの損益計算では赤字になって配当ができず、出資者を募れない。ということで、事業開始の初期段階から黒字にするために莫大な初期投資を期間按分する「減価償却」が発明され、繰延資産や引当金などの様々な計算手法がこの時代に発明された。その結果、利益計算は難解なものとなり、会計士という専門家の誕生へとつながった。

そして、ターナーの絵に大きな影響を与えたのが“カメラ”の発明。それまで写実的な絵が中心だった当時の画家は職を失うと感じ、実際に廃業する画家もいる中で、ターナーは抽象画&色彩重視(当時のカメラは白黒)へと画風を変えた。彼の抽象画は当時のフランスの若い画家たちに影響を与えており、印象派の画家を代表的するモネも渡英した際に“ターナーの絵を見て感動した”と、後に自伝に書いている。

「やり方はいくらでもある。臨機応変に戦う。」これがターナーに見るデキる人間の条件である。

※「雨・蒸気・スピード-グレートウェストタン鉄道」の画と解説
https://libeken.com/rain-steam-and-speed/

ジェームズ オスカー マッキンゼー「善く戦う者はこれを勢に求めて人に責めず」

3人目はジェームズ オスカー マッキンゼー。シカゴ大学、会計学教授。
20世紀初頭、フォードによる大量生産方式の確立によって、自動車産業がアメリカでスター産業ともいえる趨勢を見せていた時代、自動車産業が盛んなデトロイトの近くに立地するシカゴ大学で、マッキンゼーは主に経営者を対象とした「管理会計講座」をスタートし、予算制度を教え始める。

この予算制度は会計学の歴史にひとつの革命を起こした。予算制度によって会計は初めて未来を見る術を手に入れ、過去の経営状況を正確に報告するだけでなく、景気変動に苦しむ経営者に“数字を使った問題解決の手段”を提供するツールとなった。

善く戦う者はこれを勢に求めて人に責めず - 戦の巧みな者は、一人一人の能力や働きに過度の期待をかけず、全体の勢いの方を重視する-。

管理会計によって事業や組織の問題を解決し、企業の組織としての競争力(経営管理力)を向上させる。マッキンゼーは管理会計講座の盛況により、後にマッキンゼー&カンパニーを創業することとなる。

まとめ:デキる経理担当者の条件

この3人に見る”デキる人間の条件”から、経理という視点でエッセンスを取り上げるとこうなる。
1)判断・行動に役立つ情報(インテリジェンス)を提供する=経営の意思決定支援
2)AIDXなど環境変の化を恐れず、新技術を使いこなす=経理DX
3)「組織の勢い」アップを考える=数字を使った問題解決の手段を提供し、企業の経営管理力の向上を支援する

3つめの条件に関して田中氏は、「マッキンゼーの時代は予算管理でよかったが、今の時代に合った問題解決の方法を提示し、実践する必要がある」と説くが、そのためにも新しいテクノロジーを使いこなし、データやインフォメーションをインテリジェンスに昇華させることがデキる経理担当者には必須と言える。

<スピーカー>
作家・公認会計士
田中 靖浩 氏

BeyondTheBlack TOKYO 2022 の3つの基調講演・エグゼクティブ対談をまとめた
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