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BlackLine Summit2025―【前半】プライドあるCFOの仕事:AIを活用した適正分配経営(DS経営)の推進

「BlackLine Summit2025」レポート#3
特別講演「プライドあるCFOの仕事:AIを活用した適正分配経営(DS経営)の推進」

BlackLine Summit 2025_ (165).JPG2025年2月28日(金)、ブラックライン株式会社主催による「BlackLine Summit 2025」が東京ミッドタウンで開催されました。会場には多くの企業のCFOをはじめ、経理財務の業務に関わる方々にお越しいただきました。

近年、CFOの存在感が増す中で、CFO組織においても、求められる役割や必要なスキルが変化しています。一方で、従来業務においても新しいナレッジやより高い専門性が要求され、さらに、経理人材の流動性も高まっています。今、CFO組織は、企業価値の持続的な向上と人材価値の最大化に向けた挑戦を迫られています。本イベントでは、そうしたCFO組織の挑戦において、今、何をすべきなのか、テクノロジーは如何に貢献できるのか、ゲストスピーカーの方々に様々なお話しを伺いました。

本レポートでは、早稲田大学商学学術院教授のスズキ トモ氏の特別講演の内容(前半)を紹介します。

スズキ トモ氏は大手監査法人を経て、英オックスフォード大学で20年程教官を勤めた間に中国、インド、東南アジア、日本等において会計やファイナンスの方法を用いた制度設計・公共政策に従事。『オックスフォード・レポート(2012)』によるIFRSの強制適用の回避や関経連レポート『成熟経済・社会の持続可能な発展のためのディスクロージャー・企業統治・市場に関する研究調査報告書(2021)』による四半期報告書の廃止の実現など、その研究は経済社会に大きな影響を与えています。

現在は早稲田大学商学学術院で教鞭を取る傍ら、岸田政権下で内閣総理大臣補佐官顧問を務めるなど、企業や行政など現場に自ら出向き、行動し、今回の講演のテーマにある付加価値の適正分配経営の実現に向けて精力的に活動されており、本イベントで日本企業のCFO組織のみなさまに対して、熱いメッセージを語っていただきました。

特別講演「プライドあるCFOの仕事:AIを活用した適正分配経営(DS経営)の推進」

  1. 夢の仕訳
  2. 私たちが大きくすべきは利益ではなく、付加価値である
  3. 日本が抱えるマクロ的な構造と問題
  4. ミクロの状況①:個々の企業経営の問題点
  5. ミクロの状況②:解決策
  6. 結び

1. 夢の仕訳

はじめに、企業経営や経済社会における利益偏重の考えが変化し、スズキ トモ氏が推進する付加価値の適正分配という考え方が徐々に浸透してきていることを示す、いくつかのエピソードが紹介されました。

直近の公認会計士試験で問題
「当期純損益が赤字である会社の存在意義について“付加価値”の観点から答えなさい。」

経産省の事務方トップの方のコメント
「エクイティファイナンスの予定はなく、資産を売って、資本を減らして、見せかけのROEを改善して、資本効率的とか言ってね、株価を上げて、アクティビストを喜ばせて。今の市場に上場している意味があるのか。」

そして、この経産省の方のコメントの際にスズキ トモ氏が提示したのが「夢の仕訳」です。

では、「夢の仕訳」とはどんな仕訳なのか、その答えを言う代わりにスクリーンにはQRコードが映し出され、会場のみなさんにはこんなお願いがありました。

「(お答えする前に)みなさんには、もう少し勉強していただきたい。そして、今後私どもの研究室とつながっていただきたい」

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2. 私たちが大きくすべきは利益ではなく、付加価値である

「利益(≈配当➔株価)は大きい方が良いか?」

これまでの考え方ではその通りですが、新しい考え方ではこの質問に対する回答はこうなります。

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成長時代は「利益」が大きければ「付加価値(≒収益)」も大きくなったが、日本のような成熟経済社会下では必ずしもそうではない、失われた30年の間続けられたコストカット型の経営による利益の最大化は人々の幸せにつながっていないという問題提起の後、利益と付加価値の関係を図表で示しながら、いかに付加価値を適切に分配して全体を豊かにするかが重要であるかを説明されました。

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同様の考え方は、岸田前首相が2021年の総裁選出馬に際して設立した「新たな資本主義を創る議員連盟の設立趣旨」に以下のように謳われており、これは現在の石破内閣も継承することが表明されています。

  • 株主第一主義への反省
  • 適正分配制度・経営の確立
  • 従業員への投資

本レポートの冒頭で紹介した「IFRSの強制適用の回避」そして「四半期報告書の廃止」に続いて、スズキ トモ氏がぜひ実現したいと熱望しているのが、この「付加価値の適正分配経営」であり、多くの企業で実践してほしいと、研究室の学生らとともに日々行動されています。

「言葉だけでは終わらせたくないんです。ぜひとも、みなさま方のお力をお借りしたいと思います。」

3. 日本が抱えるマクロ的な構造と問題

次に、スズキ トモ氏の研究室の学生が様々な調査を行った結果をもとにした様々なグラフがスクリーンに投影、日本が抱えるマクロ的な構造と問題が指摘されました。

スズキ トモ氏は俗に言う「失われた30年」という見方に対して、「証券・株式市場制度の逆機能の20年」という見方をします。これは、2000年頃から投資家が市場を通じて資金提供機能を果たさずに、資金の回収に走っている状況を指す言葉で、その状況を最も端的に表しているのが「ワニの口のグラフ」です。

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青いグラフは投資家が起業に投資した金額で、直近2023年では1兆円ですが、企業から投資家へ流れたことを示す赤いグラフでは32兆円です。配当や自社株買いを増やし、分母である資本を減少させてPBRやROEはよくなったかもしれないが、そうした計算上の改善で済ませて本当によいのか、というのがスズキトモ氏の問題提起です。

この問題を付加価値の分配状況の推移で見ると別の問題も見えてきます。

1960年を1としたとき、売上高の約30倍の伸びに対して、

  • 従業員給与は約60倍で、役員給与は一時60倍あったが、近年下がっている。これでは役員になって経営をリードしようと思う人がいなくなってしまう。
  • 設備投資は約20倍しかない。しかも売上が伸びなくなったときに大きく下げている(1992年)。これはMBAのセオリーでは最もやってはいけないこと。自ら成長の芽を摘んでいる。
  • 一方で株主還元は2000年を境に大きく伸びている。小泉第一次内閣の新自由主義、証券・会計ビッグバンで株主への情報開示を進めた結果、想定に反して株主が投資ではなく回収に走った。

行き過ぎた株主還元を示す、こんなデータも紹介されました。

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今や株主への還元は利益からの分配だけでなく、資本金の取り崩しによっても行われていることを示しています。すでに20兆円が株主に還元され、残りの35兆円もさらなる還元に利用されようとしているのです。成熟経済において「投資家」は今や「回収家」であり、こうした現象は当然であるとします。

スズキ トモ氏はROE重視の風潮に対して「ROEを高くしないと投資家が自分の会社に投資してくれないかというと、そうではない。ワニの口のグラフのように、そもそも誰も投資していないし、実際にエクイティファイナンスで資金調達している企業は、一部の例外は除いてありはしない」と、その矛盾点を指摘し、一般的な目標値と考えられている「8%」という数値についても、海外投資家へのアンケートの平均値によって決まったに過ぎないという経緯を紹介し、日本市場とUS市場の違いを説明しながら、その妥当性に疑問を呈します。

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「こうした状況で、CFOにとってプライドのある仕事とは、いったい何なんでしょうか。」


この続きは、「BlackLine Summit2025―【後半】プライドあるCFOの仕事:AIを活用した適正分配経営(DS経営)の推進」をご覧ください。

※本レポートは講演内容のサマリーです。付加価値分配経営の詳細については、スズキ トモ著『「新しい資本主義」のアカウンティング 』を、ぜひご覧ください。

<スピーカー>
Suzuki Tomo.jpg早稲田大学商学学術院 教授
オックスフォード大学博士・元主任教授
スズキ トモ 氏

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