BlackLine Summit2025―【後半】プライドあるCFOの仕事:AIを活用した適正分配経営(DS経営)の推進
BL Summit2025レポート#4
特別講演「プライドあるCFOの仕事:AIを活用した適正分配経営(DS経営)の推進」
2025年2月28日(金)、ブラックライン株式会社主催による「BlackLine Summit 2025」が東京ミッドタウンで開催されました。会場には多くの企業のCFOをはじめ、経理財務の業務に関わる方々にお越しいただきました。
本レポートでは、早稲田大学商学学術院教授のスズキ トモ氏の特別講演の内容(後半)を紹介します。
特別講演「プライドあるCFOの仕事:AIを活用した適正分配経営(DS経営)の推進」
- 夢の仕訳
- 私たちが大きくすべきは利益ではなく、付加価値である
- 日本が抱えるマクロ的な構造と問題
- ミクロの状況①:個々の企業経営の問題点
- ミクロの状況②:解決策
- 結び
「こうした状況で、CFOにとってプライドのある仕事とは、いったい何なんでしょうか。」という問いが投げられた、本レポートの前半(1~3)は、こちらからご覧ください。
4. ミクロの状況① 個々の企業経営の問題点
続いて話は、個々の企業の問題に移ります。
青いグラフは株主からの投資金額。赤いグラフが株主還元の金額。緑のグラフが株価を示していますが、多くの企業が株主からの投資がない中で、株主還元が大きく伸びています。なお、このデータは、自社の同じグラフをご覧になりたい方向けに無償で提供されており、以下のQRコードから自社のデータを入手できるので、ぜひ社内で活用していただきたいとのことです。
また、赤字配当のランキング、コロナ禍での上場鉄道会社の配当状況(全社が赤字配当)などが紹介されましたが、当然、ある疑問が沸きます。なぜ、赤字なのに配当するのでしょうか。
この疑問に対する、ある経営者の回答はこうです。
「今の証券市場は、株主を向いた経営をしないと、経営者の首が危ない。」
5. ミクロの状況② 解決策
では、どうすればこの状況を打破できるのか。その取っ掛かりを示したのが下表で、この考え方には会社法務の第一人者の方や日経新聞社なども、最近では同様の見方を表明しています。
コーポレートガバナンスコードが導入されて10年の結果、ステークホルダーの中で株主還元だけが増加している中で、政府はコーポレートガバンスコードを推進するのではなく、見直すべきであり、会場のみなさまに対しては「株主総会に際して株主からの権力の濫用と思われるような要求には毅然として態度で臨んでほしい。要請があれば、自ら社長にも説明するし、株主総会への参加も厭わない」との力強い言葉がありました。
続いて、具体的な解決策として付加価値分配計算書(DS:Distribution Statement)が紹介されました。
DSの最大のポイントはPLのような利益の最大化ではなく、利益をターゲット化し、予定額を計上し、配当に充てるということです。そして、予定利益を除いた後に残った付加価値を役員や従業員で配分します。ただし、残った付加価値を全額現金で配分すると多すぎるので、多くの部分を譲渡制限付きの株式報酬という形で従業員に還元し、その現金をR&Dなどの事業の投資に充てます。
従業員が株主化することでモチベーションや当事者意識が高くなり、その分、現金が流出せずに再投資にまわせる一石二鳥の考え方で、このDSをすでに実現している企業として丸一鋼管の事例を取り上げました。
なお、DSの実現に関してスズキ トモ氏の研究室では、DS作成の具体的な処理のためのデータ作成サービスが提供されています。
しかし、DSをベースにした経営は「夢の仕訳」と従業員報酬の増加が目的ではなく、従業員がプライドを持って、やる気をもって会社をよくするという経営改善(ウェルビーイング経営)が実践されることが重要であるとスズキトモ氏は言い、実践している企業としてユニリーバの事例が紹介されました。
ユニリーバのPoleman CEO(当時)は、就任会見で株主第一主義からの脱却を宣言した結果、この考え方に賛同しない株主の退場 → 株価の一時的な下落 → 下がった株価で自社株買い → その株を従業員に還元 → 従業員のモチベーション向上 → 業績も株価も上昇という好循環となっています。
また、日本での同様の取組の事例として伊藤忠商事が紹介され、統合報告書でその取り組みがスクリーンに投影されました(統合レポート2019:55P)。
次に、「利益第一主義・株主偏重から脱却」を考え始めている企業や、従業員や就活生もPL経営を標榜する企業ではなくDS経営を重視する企業を志向する傾向にあることが、データやエピソードで紹介されました。
スズキ トモ氏は提案します。
「これまでの外からのガバナンスだけでなく、従業員も株主になって自分の会社の将来を考えて経営改善に努める、そうした『内からのガバンス』の要素を取り入れることが、これからの経営に求められているのではないでしょうか。」
就活生や従業員こそ、人的資本であり、希少性が逓減した金融資本に代わる、最も大切な経営資本であると強調しました。
6. 結び
岸田政権が謳った「新しい資本主義」の実現は、一度はとん挫しましたが、今また、新しい動きが起こっています。投資家の力は強大ですが、各方面に、そして、投資家の中にも味方はいます。
最後に、スズキ トモ氏は、会場にいるみなさまへの熱いお願いと力強い約束の言葉で講演を締めくくりました。
「ぜひとも、みなさまの力をお借りして、新しい日本を作ってきたいと思います。」
「私どもにコンタクトしていただければ、必ず行動します。御社に出向いて社長にも説明いたしますので、これを機会に今後ともよろしくお願いいたします。」
※本レポートは講演内容のサマリーです。付加価値分配経営の詳細については、スズキ トモ著『「新しい資本主義」のアカウンティング 』を、ぜひご覧ください。