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財務・会計用語集

インパクト加重会計(Impact-Weighted Financial Accounts)


インパクト加重会計とは何か

インパクト加重会計とは、米ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフィム教授を中心に、インパクト投資グローバル運営委員会(GSG)とインパクト・マネジメント・プロジェクト(IMP)が参画したインパクト加重会計イニシアティブ(Impact-Weighted Accounting Initiative, IWAI)が2019年に発表した会計制度で、企業活動が従業員や環境、社会等に対する正負のインパクトを算出して財務諸表を補正する考え方で、人件費であれば男女間や人種間での賃金や昇格の差、人数比の差などが調整項目となります。

日本ではエーザイ、SOMPOホールディングス、積水化学、KDDIなど、数社の導入事例があり、積水化学の例では、気候変動リスクを減らすための支出を単なる費用ではなく、社会関係資本へのプラス貢献として貨幣換算され、インパクト加重会計の中の新たな包括利益として計上されています。また、エーザイの事例では、人材育成や働きがいのある職務環境、ジェンダー平等を実現するための取り組みや支出額を、社会関係資本へのプラス貢献として金額換算しています。

似た言葉として“インパクト投資”という用語がありますが、これは投資家が投資先企業からの財務的なリターンだけでなく、社会課題の解決も狙って行う投資活動のことを指します。

インパクト加重会計による人的資本の可視化

内閣官房の「新しい資本主義実現会議」では、この「インパクト加重会計イニシアティブ」(IWAI)を人の価値を財務諸表で認識するものとして取り入れようとしています。

エーザイがハーバード・ビジネス・スクールと共同で2019年度の従業員インパクトについて分析した結果、賃金の質(+343億円)、地域社会への貢献(+11億円)の2項目で正のインパクト、従業員の機会(-7億円)、ダイバーシティ(-11億円)の2項目で負のインパクトで、合計269億円の正のインパクトがあることが判明しましたが、これはエーザイが、財務諸表上の利益に加えて、人的資本において269億円の企業価値を生み出しているということを意味しており、インパクト加重会計が、人的資本を可視化し、人材への投資が企業価値の関連性を投資家に示す手法として有効であることを示しています。

インパクト加重会計の関連用語

インパクト加重会計に関連する用語として以下のようなものがあります。

<ESG>
ESGとは、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の頭文字を合わせた言葉です。温暖化や水不足などの環境問題、人権問題や差別などの社会問題が世界に及ぼす影響が大きくなる中、2006年、当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が発表した「責任投資原則(PRI)」の中で、投資判断の新たな観点として紹介されました。具体的な取り組みの例として以下のようなものがあげられます。

  • Environment(環境)
    二酸化炭素排出量の削減、環境にやさしい素材の開発、など
  • Social(社会)
    職場における男女平等、ダイバーシティの推進、など
  • Governance(ガバナンス)
    内部統制の強化、ガバナンスの社内浸透の活動、など


<ESG投資>
ESG投資とは、企業の環境(Environment)や社会(Social)への取り組みや、ガバナンス(Governance)など、財務諸表では表されない側面を考慮して投資先を選ぶことを指します。

<ESG会計>
ESG会計とは従来の財務諸表に加えて、企業の環境(E)や社会(S)、ガバナンス(G)に影響を与える行動や取り組みの評価と開示を狙いとした会計の手続きで、評価方法について明確なルールが定められているわけではありませんが、インパクト加重会計はESG会計のひとつの手法、あるいはESG会計を高度化させたものと言えます。

<非財務資本>
非財務資本とは財務諸表には記載されない資本のことで、IIRC(国際統合報告評議会)が公表している国際統合フレームワークでは、資本は財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本という6つに分類されています。これらのうち、財務資本を除いた5つの資本が非財務資本と言われています。

<人的資本>
人的資本とは非財務資本のひとつで、従業員ひとりひとりが持つスキルやナレッジを企業が持つ資本(資産)として捉え、投資対象とする考え方で、OECD(経済協力開発機構)では、「個人の持って生まれた才能や能力と、教育や訓練を通じて身につける技能や知識を合わせたもの」と定義されています。インパクト加重会計の従業員インパクトは、人的資本を可視化し、人材への投資が企業価値の関連性を投資家に示すフレームワークとして期待されています。

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