日本企業がFP&A機能を強化するために
Executive Round Table 開催レポート
2023年11月22日、ブラックライン株式会社はCFOや経理財務の部門長の方々を対象としたラウンドテーブルを開催しました。本レポートではイベントの概要と各プログラムのサマリをご紹介します。
イベント概要
今回で4回目となるラウンドテーブルでは、前回に続いて「日本企業におけるFP&A組織」をテーマに以下のプログラムにて開催された。
- 開会のあいさつ:ブラックライン株式会社 代表取締役社長 宮﨑盛光
- ゲスト講演:SAPジャパン株式会社 代表取締役CFO 大倉 裕史 氏
- パネルディスカッション
モデレーター:一般社団法人日本CFO協会/一般社団法人日本CHRO協会
シニア・エグゼクティブ 日置 圭介 氏
パネリスト:SAPジャパン株式会社 代表取締役CFO 大倉 裕史 氏
日本電気株式会社 Corporate SVP、Deputy CFO 青山 朝子 氏 - テーブルディスカッション&発表
- 懇親会(ネットワーキング)
冒頭のブラックラインの宮﨑社長による挨拶の後、最初のプログラムでは大倉氏にSAP社のFP&A機能強化の実践事例をご紹介いただき、続くプログラムのパネルディスカッションは、NEC社のFP&A BP(ビジネスパートナー)改革の取組の一端をご紹介いただいた後で、モデレーターの日置氏による巧みな深掘りを受けてパネリストの大倉氏と青山氏が取組みの裏話や熱い思いを語るというスタイルで進められた。
3つめのプログラムのテーブルディスカッションでは「FP&Aの能力強化、機能発揮に向け、リーダーとしてどのような環境を整備すべきか」をテーマに、業種業態の垣根を越えた経理財務の幹部どうしの活発な議論が交わされ、後半では各テーブルのディスカッションの内容について発表いただいた。
最後のプロブラムの懇親会では、イベント当初は堅い雰囲気だった会場の空気もテーブルディスカッションですっかり温まり、名刺交換に意見交換と食事もなかなか進まないほどの積極的なネットワーキングを会場のあちらこちらで見ることができた。
ゲスト講演:SAP FP&A機能強化実践事例
なぜ、変革が必要だったか
SAPのビジネスがオンプレミスのERPの売切り型からリーマンショックの頃を境にサービス型へとビジネスモデルが変わってく過程で、M&Aなどで様々なDNAが取り込まれ、ビジネスのトランザクションも増大した結果、従来のオペレーションモデルでは新しいビジネスモデルを支えることが困難となり、オペレーションモデルの変革に着手したという。
変革のポイント
オペレーションモデルの変革によって、従来の各国で完結していたモデルから、現在では市場に合わせて最適化する領域とグローバルで標準化・共通化を進める領域とを組み合わせたハイブリッド型に変わっている。
このオペレーションモデルを変革する上でのポイントが2つ。
1つめが、組織、プロセス、ルール、人、データ、システムの6つの要素の六位一体となってオペレーション変革を進めてきたこと。そして2つめが、各国に配置したビジネスパートナー(以下、BP)機能を強化する“仕掛け”を作ること。
ファイナンス組織が持つ機能の中で、BP機能は各国に配置し、残りの領域はグローバルで集約して標準化を進めたが、この各国のBP機能を強化する仕掛けづくりがファイナンストランスフォーメーションを成功させる上で重要なポイントだったという。
また、税務、監査、収益認識などのエキスパート機能はCoEとしてグローバル組織に所属し、組織間でナレッジ交換できるような仕組みにすることで、ビジネスのタイムリーなサポートを実現しつつ、オペレーションの標準化と専門性の強化を並行して進める工夫をしている。
そして、現在、ファイナンス組織は、ビジネスの意思決定に直接サポートする機能だけを各国に残し、残りの機能は共通化しており、その結果、日本でCFOをしている大倉氏に直接レポートしている人はほとんどおらず、グローバルのCoEやSSCのサービスを利用してビジネスパートナリングするモデルになっているという。
BP機能を強化する仕掛け
変革の当初は様々なシステムが存在し、各国のアナリストはデータを収集し、システム間のデータの違いを調整し、数字をまとめることにかなりの時間を費やしていたが、その後、数年かけてデータ基盤を整備し、現在では経営層もミドルマネジメントも現場のオペレーションも、全てのレイヤーが同じデータ基盤から必要なデータを利用できるようになっている。
また、フォーキャストも従来はアナリスト(人)の感覚に依存していたが、現在では機械学習を活用した算出モデルを確立しており、フォーキャストに必要な各要データの入口をしっかり押さえることでインプットからアウトプットまでは人を介さない仕組みになっている。
こうしてデータやシステムが整備された結果、以前は過去実績の分析に時間をかけていたのが、現在ではフォーキャストに対してどんなオポチュニティがあり、リスクがあるのか、そのギャップを埋めるためにどうすればよいか、という前向きなアクションに議論の中心が移っているという。
それでもまだ、データに対してどれだけインサイトを出してアクションにつなげるかは大きく人に依存しており、そこが今後、BP機能のさらなる強化を図る上での課題となっている。
変革の成果
講演の最後にファイナンストランスフォーメーションの成果として、大倉氏自身の役割の変化について、従来はジャパンの数字の完全性と正確性の担保にかなりの時間をかけていたが、今では完全性の担保に多少の時間を費やしながらも、多く時間とエネルギーをビジネスサポートに割くことが出来るようになっていることが紹介された。
パネルディスカッション:日本企業がFP&A機能を強化するためには
大倉氏の講演に続いて、パネリストとしてNEC社の青山氏にも登壇いただき、日本CFO協会の日置氏をモデレーターにパネルディスカッションが行われた。
ディスカッションの冒頭、SAP社の事例について青山氏から「ただただ、うらやましい(会場一同、同意の笑い)」というコメントがあり、SAP社と日本企業の現状には大きなギャップがあるが、SAP社の話を受けて「では、日本企業はどう頑張ればよいか」という観点で、NEC社の取組みが紹介された。
NECのFP&A BP改革の取組
経営・ファイナンスプロセス刷新プロジェクト
NECは幅広い分野で事業を展開し、各事業が独自のプロセス・システムにて事業を進めてきた結果、全社的な観点で事業を評価しようとしたときに、人手をかけてデータを収集するプロセスになっていた。
そこで、全社戦略の観点から商談から契約・受注までのプロセスを見直し、全社での売り物の統制、価格の統制、プロセスの共通化を行い、すべてのプロセスをデジタル化し、データ情報の取得が可能となるプロジェクトを進めている。
今年5月には標準化されたシステムが稼働し、これまで見えなかったものが見えるようになり、現在は「見えるようになった」ことをいかに次のビジネスの戦略に活かすかを検討する段階に来ている。
CFOのワンマネジメントで変革を加速
以前はコーポレート機能として経理や財務があり、各事業部門の中には事業計画室という事業部長の番頭のような役割の組織があった。そこで、これら組織の機能の棚卸を行い、①経営戦略機能と②本社SSC機能という全社最適の役割と、③BP機能と④事業SSC機能という事業執行パートナーの役割の4つに分類して組織を再編した。この組織改革には2年を要し、今年の4月からは各事業のFP&A BP機能を青山氏の配下に集約している。
FP&A BP機能の集約には以下のような狙いがあったという。
- FP&A BP機能の専門性を磨き、人材の高度化を図る
- コーポレートと事業部門の間の透明性を高め、数字にあるオポチュニティとリスクを見えるようにする
また、経理・財務の人と事業計画室の人が混在するBPチームが“ワンチーム”になるために「どこを目指すか」「どうやって到達するか」など定めた5つの柱からなるビジョンをまとめている。
ディスカッション
人を育てる仕掛けづくりについて
最初に日置氏の「FP&A人材は社内にも社外もいないので、人材を育てる仕掛けづくりが重要」という指摘の後、FP&A人材の成長をうながす環境づくり、機能を活かすための仕組みづくりについてパネリストの両氏に意見を訊いた。
青山氏:
「FP&Aは時には事業リーダーにNOと言うことも必要で、そのためには十分な財務分析が必要。しかし、今のままでは忙しくて時間がない。そこで業務の棚卸を行い、考える時間を作るために“やらない仕事リスト”を作成している」
大倉氏:
「何が価値なのかを明確にすることも大事。その価値のある業務と自身が持つスキルセットや経験とのギャップがあるときに、そのギャップをどう埋めるのかというディスカッションをするための「見える化」の仕組みづくりをしている。ギャップを知ることにも価値がある」
ビジネスの前線にいるFP&Aを孤立させたいためには
続いて日置氏から「FP&Aは最前線にいることが重要だが、日本企業のファイナンスチームには戦うための“武器”(情報)が不足しているため、兵站が伸びて前線の人が孤立してしまう」とのコメントがあり、孤立させないために意識していることや仕掛けについてディスカッションが行われた。
大倉氏:
「ファイナンスのメンバーがビジネスを自分ごととして捉えて動くのは課題だった。今では両者が部分的に同じ目標(KPI)を背負って活動している」
青山氏:
「事業リーダーにNOと言うような場面では自分も同席したりする。NOと言うことで感謝されることもある。そして、そのときの対応をチームで共有することで、他メンバーのマインドも変わるしスキルも向上する」
日置氏:
「ファイナンスチームでナレッジや経験を共有して戦闘力を高めるのはとても良いと思う。
ある外資系企業では、CFOが主催する戦略会議があり、そこではファイナンス部門の課題ではなく、事業部門の戦略やビジネス上の課題をファイナンスの視点から議論させることで
メンバーを鍛えるとともに、各メンバーの事業部門での経験をファイナンスチーム内にフィードバックするというサイクルを廻している事例もある」
大倉氏:
「会社の戦略の中でのFP&Aの立ち位置を明確にすることが大切。そのためにはファイナンスチームの中でコミュニケーションを重ねる必要がある」
実現したいFP&A像
パネルディスカッションの最後に“実現したいFP&A像”について両氏に語ってもらった。
大倉氏:
「マクロな視点で戦略や財務数値を考え。ミクロの視点で今何をしなければいけないかを考える。そのマクロの視点とミクロの視点の橋渡しをするのがFP&Aならではの役割だと思う。そして、それをただ提言するだけではなく、自分ごととしてビジネスをドライブしていけるような組織が自分にとっての理想のFP&A」
青山氏:
「ひと言で言えば、NECのビジョンにあるS・P・E・E・Dを体現できる人。FP&A BPはインフォメーションに分析を加えてインサイトを導きだすのが仕事だが、そのインサイトもビジネスの意思決定に影響を与えられなかったら意味がない。ビジネスにインパクトを与えられる人がFP&A。そういうチームを作りたい」
テーブルディスカッション&発表
3つめのプログラムのテーブルディスカッションでは「FP&Aの能力強化、機能発揮に向け、リーダーとしてどのような環境を整備すべきか」をテーマに、業種業態の垣根を越えた経理財務の幹部どうしの活発な議論が交わされ、後半では各テーブルのディスカッションの内容について発表があった。以下のその一部を紹介する。
- 「やらなければいけないことリストがたくさんあった。これからは、やらないリストを作りたい」
- 「我々が変わらなければ、次の世代も変われない」
- 「現状は作ること(正確性、完全性)にパワーかけすぎ」
- 「コーポレート中で部門間の連携が弱い」
- 「トップダウンで変革を推進することが大事だと感じたが、進め方は日本企業に合ったアレンジが必要」
- 「ファンドはファイナンス理論に基づいた提案(攻撃?)をしてくるので、対抗するための情報武装が必要。その観点でもFP&A機能の強化は大事」
- 「SAPのように6つは無理でも、4つは同時並行で変革しないと変えられない。ビジネスをわかる人をファイナンス組織に加える必要がある。そのための仕組み、ツール、プロセス、人の4つをトップダウンで」
- 「経理は内向きだが、FP&Aはもっと外に働きかける仕事。それがないと経営や事業部のニーズ(本当に必要なもの)がわからない。ビジネス環境を知る機会(環境)を設ける必要がある」
中には「BP機能を集約すると事業リーダーはやりづらくならないか」というNEC社の事例に対する質問もあり、青山氏から「最初は抵抗が大きかったが、今では、組織上はコーポレートに集約してもBPの社内のオフィスロケーションは変わらないし、ビジネスを最大化する目的も変わらないということを事業リーダーも理解している。それと『みなさんの代わりに私が育てます、パワーアップさせて、みなさまのもとに置きます』と、BPを集約することのメリットを伝えるのが抵抗を抑えるのに有効だった」とのコメントがあった。
最後のプロブラムの懇親会では、用意された料理が大量に残ってしまうのではないかと不安になるほど、お客様どうしが積極的に名刺交換や意見交換を行い、懇親会の前に記入いただいたアンケートでは「他社との会話を通じて、共通する課題・相違点が聞けて参考になった」「他社の話を聞くことで、自社の足りないところが分かる」といったコメントを多くいただきました。
ブラックラインは今後も、経理財務部門の高度化と人材価値の最大化をご支援するために、製品の提供だけでなく、今回のような皆様をお繋しナレッジを共有できる場を企画して参ります。参加頂いた皆様、ありがとうございました。また、当日の円滑な運営をサポートしていただいたホテルのスタッフのみなさま、ありがとうございました。