ファイナンス×人的資本論〜企業価値を高める人的資本の重要性とは〜レポート#2
2023年3月10日(金)に開催された「BlackLine Summit 2023」では、「ファイナンス×人的資本論」をテーマに、財務会計と人材に関する有識者による講演、パネルディスカッションが行われました。
レポート第二弾では、ブラックライン株式会社 カスタマーチーム部長 米国公認会計士 石川 康男のセッション、東京都立大学大学院 橋本勝則 氏、資生堂CFOの横田貴之 氏、日本CFO協会/日本CHRO協会 日置圭介 氏によるパネルディスカッションの内容を紹介します。
石川 康男 ブラックライン株式会社 カスタマーチーム部長 米国公認会計士
石川は、ブラックラインを使った変革と経理人材の活用方法、そして人的資本開示の義務化について語った。2023年3月期以降、日本でも人的資本開示が義務化となる。これに伴い、人材をコストではなく、企業が持つ資産=「人的資本」とみなす考え方が重要となる。
「ESG関連の開示ルールの動向として、コーポレートガバナンスコードの改訂、人的資本開示の義務化が始まります。これまで日本の財務諸表は無形資産の割合が低かったのですが、今後は有形資産から無形資産へシフトし、人的資本の価値が企業価値を左右する時代となります」(石川)
開示の項目として人材育成とエンゲージメントがとりわけ重要になる。そのため開示の重要な立場となるファイナンス部門には、「経理+IT」の知識が不可欠となる。「ファイナンス部門にこそDXプロジェクトのリーダーが必要だ」と強調した。
「単なるスコアキーパーではなく、CFOのパートナーとなり得るような存在であるべきです」(石川)
その取り組みとしては、ブラックラインのようなソリューションを活用して経理業務を変革するDXを進めることが有効だとし、その上で「変革はそれほど簡単ではありません。私もブラックラインを入れればすぐに解決できるとは申し上げません」とも語る。その上で、取り組みの段階として、可視化、標準化、自動化、統制強化という四つのステップを挙げた。
・可視化 :決算作業の進捗、各タスクへの割当て、作業時間、期間、ボトルネックなどの可視化
・標準化 :非効率な作業、拠点によりバラバラな作業を標準化し、一定の品質を確保
・自動化 :単純作業、ルール化できる作業の自動化
・統制強化:国内・海外子会社のオペレーションや余裕がなく放置していた分野の統制
こうした4つのステップを踏まえて、CFOパートナーとなることが目指す姿だ。そのために、BlackLineは、以下の図のような機能で支援できると石川は言う。
BlackLineが選ばれる理由としては以下の4つの特長を挙げた。
・機能や連携の拡張性:様々なERPや会計システムと連携、年4回、1回あたり約40機能をリリース
・経理・決算に特化 :経理業務に必要な各機能がシームレスに連携、設定の多くはノーコード
・クイックスタート :早期立ち上げ、短期間プロジェクト、個社にあわせた段階的な導入が可能
・エコシステム :日本でのパートナー9社による導入支援、ユーザ会にて経理同士のネットワーク
「BlackLineがこうしたステップを支援することで、経理社員の教育にもより時間を割くことができ、経理が未来志向のCFOパートナーへとなれると思っています」(石川)
ファイナンス × HR= これからの会社とヒト
日置 圭介 氏 一般社団法人日本CFO協会/一般社団法人日本CHRO協会 シニア・エグゼクティブ
横田 貴之 氏 株式会社資生堂 取締役 エグゼクティブオフィサー チーフファイナンシャルオフィサー(最高財務責任者)
橋本 勝則 氏 東京都立大学大学院 経営学研究科 特任教授
最後に行われたパネルディスカッションでは、司会の日置氏から、「なぜ日本企業と外資系企業では、ファイナンスパーソンの成長過程に違いがあるのか」、「ワールドクラスとの距離感を職場環境、人材育成、キャリア形成などの側面からどのように考えるのか」といった問題提起が行われ、ディスカッションが行われた。ファイナンスパーソンの成長過程について、橋本氏、横田氏はそれぞれの長いファイナンスのキャリアの経験に基づく持論を披瀝した。
橋本氏は、経理財務のキャリアを45年積んできた。大学卒業後、海外で働くことを望み、多国籍企業のYKKに就職した。8年間の経理のキャリアを積んだ後、ロンドンに赴任した。そこで経理の仕事は単なる伝票会計や数字を管理するだけではなく、頭で稼ぐことを教えられたという。
「YKK時代に、専門的な知識として、有価証券報告書やトレジャリー業務、資金関係では銀行との付き合いの仕方などを経験する中で、自分が誰かに対してサービスを提供して、その対価として給料をもらっているという意識が身についていったのだと思います」(橋本氏)
横田氏は、新卒で住友商事に入社し、営業経理部門に配属されたことがきっかけで、経理連結税務を学び、CFOを目指すようになった。その後もダウ・ケミカル、GEでファイナンス・パーソンとして研鑽を積み、ユニリーバを経て、資生堂に入社。本社の財務経理部長を経て現在はCFOとして、成長戦略やパフォーマンスマネジメント、コンプライアンスなどを担当し、現在はIRの投資家対応をしている。
「はじめは、ファイナンスならアメリカ企業だろうという単純な動機から始まり、タックス・アナリストやカントリーコントローラーという重要な任務を経験していきました。やはりFP&Aが不可欠だと決心したのが転機。会社を変わる中で、次々新しい仕事が与えられてきたと思います」(横田氏)
この横田氏の発言を受け、橋本氏、日置氏は、海外では、ファイナンスディレクターの責任範囲が日本よりも広く、組織の効果的な運営を支援するためのネットワークや組織運営が徹底していることを紹介した。ワールドクラス企業では、HR部門の専門家がファイナンス部門の人材育成を担当し、海外へのアサインメントを含めたジョブローテーションやトレーニングなどを担当している。これは、日本のように、経理財務部門内で人材育成を行うのとは異なり、HRの専門家が人材を客観的に評価し、透明性を確保しているのだと言う。
阿吽の呼吸を「仕組み化」する
日本企業の多くは人に依存したオペレーションマネジメントシステムを採用しているため、ワールドクラス(世界水準)の企業と比較して、マネジメントのレベルに差がある可能性がある。日置氏は橋本氏との共著『ワールドクラスの経営』に触れ、ワールドクラス企業と日本企業の間には、「阿吽の仕組み」と「阿吽の呼吸」との違いがあると指摘する。
「日本の企業は阿吽の呼吸の同質感で回してきた。人に依存したオペレーションであるのに対し、ワールドクラスは、阿吽の仕組みを前提にしたマネジメントシステム。これを前提にした時、人の育成は大きく違ってくる」(日置氏)
これを受けて横田氏は、「ワールドクラス企業では人事や会計システム、ERPがきちんと統一されており、キャリア開発プランやパフォーマンスレビューなどのプロセスが整備されていることが差を生んでいる」と語る。横田氏も資生堂で、HRBP(HRビジネスパートナー)をはじめとするHRブレインと共にHR×ファイナンスの全社的な改革を進めているのだという。
橋本氏も「5年後、10年後どうありたいのか、そのためにどのようなトレーニングが必要になるかを、個人と会社がアライメントしプランを提示する。そんな透明性のある仕組みが必要」と語る。
まとめとして、日置氏は「ファイナンス×HR」の視点から、これからの時代に相応しい経営を追求するためにどのような取り組みが必要かを問いかけた。
「ファイナンスもHRもバックオフィスというような意識は必要ない。マーケティングやテクノロジーと同じく専門性を追求するビジネスパートナーのチーム組織としてパフォーマンスを追求してもらいたい」と橋本氏。横田氏もまた、「ユニリーバ時代を思い出すと、グローバルなリーダーシップのチームの中にはファイナンスやHRの人間もいた」と同意する。
ファイナンス×HRについて考える際、個人の力だけでなく、組織としての力を強化することも重要となる。「個人の強みを活かしながらも、チームとして働き、事業に貢献する。チームワークを重視し、組織全体で人が成長する環境を整える」ことで3人は意見が一致し、ディスカッションを終えた。