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日本のFP&Aを支えるデータと組織の在り方

Executive Round Tableイベントブログ

ブラックライン株式会社は、2023年6月2日、都内ホテルにてCFO・経理財務の部門長の方を対象としたラウンドテーブルを開催しました。3回目となる今回は、日本でのFP&Aの進め方や、それを支える人や仕組みをテーマとして、ゲスト講演、そして参加者の皆様によるディスカッションについて一部始終をレポートします。

創業経営者が持つキャッシュ思考と未来志向

HH.jpgゲストとして、ロジスティード株式会社(旧:日立物流)CFOである本田氏がFP&Aに必要なマインドセットや組織の在り方、システム・データの在り方等について登壇しました。まず本田氏は自身のキャリアの特徴として、ファーストリテイリング代表の柳井氏といった、創業経営者と一緒に仕事をする機会を3社経験してきた点だと振り返りました。そのため、創業経営者がビジネスモデルを財務モデルへ変換する作業を本能的に行うのを間近で学び、FP&Aやトレジャリーに繋がるポイントとなるキャッシュ思考と未来志向の重要性を痛烈に感じられたと言います。

大企業化の弊害、計数感覚を取り戻すには?

「会計データは現在の経営状態をシンプルにリアルタイムに伝えるべきもので財務状況を正確につかみ、どれくらいの投資をいつまでに如何に回収するのか計数感覚が大事です。しかし日本はその意識が希薄ではないでしょうか。」

その背景として大企業化する中での組織のサイロ化、経営陣と現場間の意識の乖離が起きている実態を指摘しました。

「キャッシュをおさえ、未来への検討を大企業の経営者が一人で行うには限界があります。如何にリーダーに経営者意識を持たせて任せられるかが企業成長の鍵です。」
1つの打開策として、現在多くの日系大企業の体制であるピラミッド型組織と併存して、ネットワーク型組織(アジャイルにスピードをもって動ける体制)を取り戻すことを挙げました。リクルート社が実施するプロフィットセンター制がその一例です。また、システムの作り方も、ピラミッド型組織の中で、縦割で作ってしまっているのではないか?と課題提起しました。

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図:「Change 組織はなぜ変われないのか」 ジョン・P・コッター バネッサ・アクタル ガウラブ・グブタ著 池村千秋訳 2022 ダイヤモンド社

日本の個別最適システムが行き着く先は?

続いてFP&Aのインフラとなる日本のシステム活用の現状について整理しました。
「例えばERPはEnterprise Resource Planningの略なので、会社の経営資源を最適配分するもののはずなのになぜERP=会計システムとなっているのでしょうか。」
その原因として、システムを構築した際に、部分最適でカスタマイズを施してしまい、会社ごとに異なるシステムを使っていることにあると指摘しました。

・EPM(Enterprise Performance Management)システムはベースとなるデータが異なるとそもそもやりたいことができない
・BI(Business Intelligence)は便利な一方、異なるデータベース毎にBIが生成され個別最適BIと化する
・異なるデータを1つにするためにデータを移行したり、RPAを導入しようとして、皆で忙しくなってしまう…

本田氏自身も、トレジャリーを行う際、資金がどこにあるか一元で管理できないために、アロケーションする前にデータ収集段階で疲れてしまう、と自身の経験を振り返りました。しかし、ERPを本来のERPの使い方にするチャンスが2025年の崖だと言います。

絶対に譲れない!マスターデータマネジメントとは?

日本はマスターデータに対するガバナンスが効いていないと本田氏は指摘します。そこで、マスターデータマネジメント(MDM)の必要性について解説しました。

「グループ全体を見るときに、データの粒度や切り口を合わせてシステムを作り込まないと、結局使えないデータが集まりデータ活用は定着しません。MDMにおいて大事なのは、異なる立場の人が理解可能なデータの「共通言語」を作ること。FP&Aを行うときに判断基準として使えるように全体最適で作ることです。『あたなに、この事業のことはわからないだろう!』というような不要なコンフリクトが起きないように、同じデータで議論できるようにします。」

全体最適・部門横断でグランドデザインする

システム設計やデータマネジメントの上で個別最適にならないようにするには、他にどのような点を心がければ良いでしょうか。

本来はシステム設計をする際、部門横断でグランドデザインができるプロセスオーナーを設置するのが理想ではあるものの、誰もやりたがらないのが実態だったと言います。そのため、ロジスティードではITシステムにその役割を担わせて後で、組織がその考えに追いついてくれればと割り切って進めていると語ります。

「日本の強みは現場力。現場レベルでの継続的な改善です。DXは日本の強みである現場力を可視化して組織をフラット化できる、現場力と経営力の一体化で部分最適と全体最適の融合が実現できる」と強調しました。

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データを使える人間が経営を行う

重要なのは、統合したデータを等量化することだと言います。

「ピラミッド型組織で、且つデータが統合されていない世界では、上層部で“情報を持っている人がえらい”となってしまいます。そうではなく、情報は等量化し、データを使って最適な判断を下すことができる人が経営を行えばいいのです。
さらにテクノロジーが進化しデータを繋ぎやすい時代になってきています。BlackLineのように、業務をデータで繋げられるソリューションを活用することで効率も品質も高まってきます。」

ロジスティードが目指す攻めと守りのデータ活用

続いて話題は、ロジスティードが現在取り組む大規模基幹システム計画に移りました。国内全拠点でSAP S/4HANAをカスタマイズなしで導入完了し、グローバルにおいては別の会計システムで統一していくという方針のもと、システムは異なっていても、グローバルで取引先コードや勘定科目などマスターを統一していく点も強調しました。

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物流業なので各物流センター(事業所)別、等いくつかの評価単位で売上高などの指標を確認できるようにするのが攻めのデータ活用。また、守りの部分ではワークフローを組むことによりエビデンスと、データの整合性を紐づけながらチェック体制を整えていくそうです。共通のデータマスターと、ワークフローによる共通の業務プロセスにより、これらのインフラが実現されていくのだそうです。

これからのCFO組織が担う3つの役割

本田氏が考えるCFO組織の将来像として、図の3つの役割を担い、その推進にはFP&AやTreasuryといった専門領域の機能強化が必須と言います。財務経理というと、日本だと領域が曖昧な場合があるので役割を明確にすること、そして、その土台となるマスターデータは譲れないと再度強調しました。
「スキルがあるのに、データの扱いで疲れないように環境を整えなければなりません。」

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CFO、財務経理マネジメントの皆様による意見交換

本田氏の議論を受けて、参加者の皆様にFP&Aの役割定義や、FP&A定着への課題、解決策について意見交換を頂きました。この1年でFP&Aという言葉が社内でも意識され始め、PL主義ではなくキャッシュに重点を置き始めたという声も数社ありました。またFP&A機能を進めるにあたり、最も共通課題として挙がったのは”財務経理と経営企画の分化”でした。両者の間にFP&Aの役割が落ちてしまうという点や、実態として、「経理の中には経理だけやりたい人がいて、経営企画の中には経営企画だけをやりたい人がいる」というような課題も多く聞こえてきました。

それに対し、
・新しい組織を作り始めている
・強いトップダウンで進める
というご意見など多数、自社でのお取組みについて共有頂きました。中には、財務経理組織の半数を超える人材を外部から登用してDXにチャレンジされているという例も挙がりました。業種業界は異なるものの、各社共通の課題感を確認頂けた時間となりました。

ブラックラインは今後も、経営の羅針盤となる経理人材を多く生み出すことをビジョンとして、製品の提供だけでなく、皆様を繋ぎナレッジを共有できる場を企画して参ります。参加頂いた皆様、ありがとうございました。

<スピーカー>

ERT6.jpgのサムネイル画像ロジスティード株式会社
常務執行役員 CFO 財務戦略本部長
本田 仁志(ほんだ ひとし)

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