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元江崎グリコCHRO 南氏が語る「人的資本経営を実現するための人材投資術」

「BeyondTheBlack TOKYO 2023」レポート

2023年8月23日・24日の二日間にわたり、ブラックライン株式会社主催による「BeyondTheBlack TOKYO 2023」を開催いたしました。今回のテーマは「ファイナンス×人的資本経営」で、非常に多くのお客様にご参加いただきました。本ブログでは、その一部をレポートさせていただきます。

Minami5.png人事戦略アドバイザーの南 和気氏は、元江崎グリコ株式会社 執行役員 グループ人事部長であり、SAP人事アドバイザリー本部北アジア統括本部長を経験してきました。20年以上の人事のキャリアを活かし、人事戦略、人事の制度設計を専門にしたコンサルティングを行っています。普段は人事部門の担当と会話する機会が多いという南氏は、経理部門、ファイナンス担当の参加者に向けて冒頭こう語りました。

「人事部門と経理部門というのは、近いようで意外に遠いと感じてきました。人的資本経営というテーマは両部門にとって共通課題ですのでぜひ、人事の立場から人という経営資源の課題について参考にしていただければと思います。」

南氏は初めに、平成元年の世界時価総額ランキングにおいて14社存在した日本企業が現在はほぼゼロに落ち込んでいる事実をあげました。ファイナンス部門と人事部門が経営資源としての「人・もの・金」に注力しているにもかかわらず、停滞している理由について、南氏はこう見解を語ります。

「人材も経営資源として捉えるならば、資本としての価値を高めるという考え方が必要です。しかし日本企業は、これまで人という経営資源に投資をして価値を上げるという観点が少なかったのではないでしょうか。成長力という面でも大きく遅れをとり、グローバル化、DXの波にも追いつけていません。問題は、環境変化に企業の変化が間に合っていないということです。(南氏)

環境変化の例として南氏が示したのが携帯電話からスマートフォンへの大きな地殻変動です。2000年代の前半世界の携帯市場の中で、 50.8%あったノキアのシェアはiPhoneの登場で凋落し2016年 0.1%に下がり、市場から撤退しました。こうした「価値そのものが短サイクルで変化していく時代には、日本企業が大事にしてきた長期的に改善し育てるという文化は合わない」というわけです。

同じような変化は今後も起こり得るといえます。たとえばChatGPTのような生成AIが登場してきた現在、スマートフォンで検索するという行動も今後変わってくる可能性もあります。

新たな価値創造のためのイノベーションがビジネスを急激に拡大させる現代において、日本企業が再興し、飛躍するチャンスは存在しないと言えるでしょうか?この疑問に対する答えを模索する過程で、日本企業における人材課題が深刻な要素として浮かび上がります。その象徴ともいえるのが、世代構成の偏りです。

「管理職(課長)に登用される平均年齢は47歳、部長登用の平均年齢は49歳から52歳、社長の平均年齢は2015年に60歳、2020年は62歳に高齢化したというのが日本企業の現状です。米国のビル・ゲイツやラリーペイジ、中国アリババのジャック・マーが若くして経営を退き、後任に立場を譲ったことと比べると格段の差だといえます。」(南氏)

中堅層・転職者の半数が35歳以上という状況で、大卒3年目の3割が退職する状況は20年以上続いています。こうした若者が上をめざせないという状況を見るならば、日本企業は「人への投資」をもっと強化すべきというのが南氏の意見で、「これだけ人の育成のスピードに差があると、人材への投資はもっとも回収効率の悪い投資になっている」と警告します。

では、日本企業の生存戦略としてどうすれば良いのでしょうか。南氏は「リーダーを早期に育成すること」だと述べ、リーダーシップを育成するためのヒントとして3つの理論を紹介しました。

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まず一つ目は「特性理論」と呼ばれ、リーダーの資質は生まれつき備わっていると考えます。この理論は、リーダーに求められる要素が多くない環境では有効であるとされています。「昔はリーダーの能力はうまれつきで、世襲が良いとされていたのです」と南氏。

次に「行動理論」であり、優れたリーダーには共通する行動パターンが存在すると主張されます。これはモノづくりが中心で師弟関係が強い日本企業には見合うものだったといいます。しかしこの理論は環境が安定している状況を前提としているものでした。

最後に「条件適合理論」というものがあり、リーダーの有効性は環境や条件に依存するとされています。特に、変化と多様性が増加する環境では、この理論が有用であると考えられます。柔軟に環境に適応できるリーダーが求められるのが現代であると言えるでしょう。

これらの理論のいずれも正解はないと語り、「状況に即したリーダー育成方法を選ばなければ人材育成は加速しない」と南氏は助言しました。

モチベーションと成功体験が人的資本を増大させる原動力

Minami6.png南氏は、人材の価値は経験やモチベーションがうまく機能すると、スキルの不足を上回る価値を発揮すると指摘し、人を速やかに成長させるためには、この成功体験を効率よく生み出すことが重要だと指摘します。

「成功するとモチベーションが上がる」そのモチベーションが上がれば、スキルの獲得スピードも向上します。結果として、更なる成功体験が早く訪れ、成長のスピードが加速するのです。」(南氏)

また、「人的資本経営」がキーワードとなり、人材の価値を高める戦略が語られているものの、戦略の「具体性」と「進捗管理」が曖昧なことも指摘しました。多くの企業が抽象的な理想論に終始してしまっており、戦略を実行するための進捗管理が行き届いていないことが、目標達成の妨げとなっているというのです。

「企業内で経営戦略と人事戦略が連動していない場合、戦力となる人材を効果的に活用することができません。経営戦略と人事戦略、この二つがきちんと繋がっていないと、どちらも半ば以下で終わってしまいます。」

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具体的な戦略とその実行については「人的投資の効果を見極めるモデル」などが参考になるといいます。その上で、今回の人的資本経営の進捗の開示という課題を1つのチャンスだという見方を南氏は示します。

「未来を示す一つの指標として、ぜひ人的資本の情報開示というものをうまく使っていただきたいと思います。」(南氏)

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