BeyondTheBlack TOKYO 2024─デジタルプラットフォーム導入の実践的アプローチ - 日本ゼオンが語る成功への道筋
「BeyondTheBlack TOKYO 2024」レポート
2024年8月、「BeyondTheBlack TOKYO 2024」において、あずさ監査法人の水澤卓氏と日本ゼオン株式会社の小竹裕氏によるセッション「デジタルプラットフォーム導入の進め方-業務効率化で大きな成果を得るためのロードマップ」が開催された。このセッションでは、日本ゼオンの実例を通じて、BlackLineの導入から運用までの実践的なプロセスが紹介され、デジタルプラットフォーム活用による成果を得るまでのロードマップが示された。
BlackLine導入の背景とタイムライン
創業74年を超える化学メーカー、日本ゼオン。同社の経営管理DX企画推進室室長である小竹裕氏が、BlackLine導入の背景と課題について説明した。
「VUCAと言われる変化の激しい環境下で、業務の複雑化や量の増加、属人化やガバナンス強化への対応が課題となっていました。さらに新型コロナ感染症への対策からも、リモート下で業務の進捗状況を部門全員が知ることができ、確実に業務を遂行するプロセスが提供できないか、といった課題意識がありました。」
そのため課題に対し、日本ゼオンはBlackLineの導入を決定。導入の狙いは、業務と情報の一元管理、履歴の集約、業務負荷や進捗度の可視化を通じて、これまで感覚的に把握していた課題を抽出し、デジタルツールやRPAの活用によるさらなる業務効率化につなげることだった。
小竹氏はBlackLineの導入・運用状況とこれまでの取り組みのタイムラインを紹介した。2019年に社内でデジタル活用に関する勉強会を開催し、最新の業務運営について情報を収集。この勉強会でBlackLineの紹介があり、そこで得た知識や情報を中期経営計画の取り組みへと展開した。
その後、中期経営計画STAGE30の開始とともに、BlackLineの導入に着手。2022年2月にタスク管理機能を、2023年2月にマッチング・仕訳機能の利用を開始。現在は、マッチング機能の活用範囲を海外入金消込へと拡大する取り組みを進めている。
導入プロジェクトは複数のフェーズに分けて実施された。フェーズ1では、タスク管理の導入を進め、タスクの可視化・標準化を通じて一定の業務効率化の進展・定着化を図った。しかし、タスク管理だけでは十分な効率化が得られないと判断し、フェーズ2としてマッチング・仕訳機能の導入を行った。これにより、タスク管理での効率化にマッチング・仕訳による効率化が上乗せされ、より効率的な業務構築を目指している。
入金消込と仕訳入力の効果
BlackLine導入の具体的な目的と効果は、「入金消込」と「仕訳入力」にあった。入金消込については、定性効果として、自動処理による決算作業の効率化・業務負荷の軽減、システム化による入金照合・差異解消のノウハウの可視化・共有化を実現した。定量効果としては、入金消込の自動照合率・個数削減とも導入後に一定程度の効果を確認している。今後は、周辺システムも含めた改善を図り、自動照合率、工数削減率ともにさらなる向上を目指している。
仕訳入力に関しては、BlackLineに登録したタスクとの連動によるオペレーションの一元化・効率化、手作業の削減によるミス抑止と手戻りの削減といった定性効果が得られている。今後は段階的な業務移行を進め、定着化を図る中で、定量効果の把握も進めていく予定だ。
とはいえ、BlackLineの導入は決して平坦な道のりではなくシステム開発上の課題もあった。直面した「壁」とその対応策について小竹氏は明かした。
まず、システム連携の難しさに直面した。日本ゼオンでは基幹システムSAPと社外のシステムを接続した例が少なく、BlackLineとの接続にあたって、システム部門に理解し開発を進めてもらうのが難しかった。この壁を乗り越えるため、あずさ監査法人、BlackLine、そして自社のシステム部門との対話の機会を増やし、認識合わせを重ねたという。
次に、既存業務からの移行に対する不安があった。BlackLine導入時点ですでに既存の業務での負荷が高まっている中で、新たなシステムを導入し業務を移行することに対し、担当者が戸惑いや不安を感じるのは自然なことだった。導入時にはプロジェクトメンバーを中心にハンズオンでのサポートを実施し、継続的なサポートの必要性を認識した。
さらに、当初の計画変更を余儀なくされた。最初は経営管理統括部門の全業務を一括してBlackLineでの仕訳入力業務に移行する計画だったが、業務負荷が高くなりすぎるとの声があり、計画を変更し、段階的な業務移行へと方向転換した。
最後に、運用方法の転換を図る必要があった。導入当初は中央集権的かつシステムの使用を意識してもらうため、タスクの未完了や完了遅れなどを指摘する運用となっていた。しかし、利用方法が浸透していく中で、自主的な利用が見られるようになってきたため、望ましい良い活用事例を共有するなど、より能動的でかつ定着につながる活用方法への転換を図っている。
これらの経験から、システム導入など業務の仕組みを変えることで効率化は進むが、構築されたシステムや業務の仕組みを利用・活用する人々と互いに意見を出し合い、相互に共有・共感の元で取り組みを進めていくことの重要性が痛感された。
「日本ゼオンのBlackLineユーザーの中でも、その認識にまだまだバラつきがあり、順風満帆という訳ではありません。壁を乗り越えるためのヒントを社内でも議論するとともに、他社の事例からも学んでいきたいと考えています」
と小竹氏は締めくくった。
あずさ監査法人が語る導入のポイントは「照合と差異解消」
次にあずさ監査法人の水澤卓氏が、日本ゼオンの事例を踏まえたBlackLine導入における重要なポイントを解説した。特に重点としてあげたのは、入金消込プロセスの効率化についての3つのポイントだ。
1. 照合と差異解消の自動化:
自動一致機能を活用し、入金予定日と実入金日のズレや、債権の取引先名と入金者名のゆらぎを許容する照合ルールを用いることで、自動照合の範囲を拡大できる。また、手数料差異など差額が一定となるケースについて部分一致機能を活用して差異解消のための伝票を自動作成することで、作業の効率化を図ることができる。
2. マニュアル作業の効率化:
提案一致機能を活用し、目検による照合作業の範囲を絞り込むことが可能。また、取引先マスタの整備など業務ルールの策定・見直しを行うことにより、さらなる効率化を達成できる。
3. 会計システムへの伝票転記タイミング:
API連携を用いることでリアルタイムに会計システムへ伝票転記が可能となる。業務のスケジュールを考慮し、必要と判断される場合にはAPI連携を行うことでスムーズな業務を実現できる。
加えて、水澤氏は次のように述べた。
「BlackLineを活用した場合、とくに照合から差異解消までのプロセスを大きく効率化することができます。照合作業は、マッチング機能を活用することで柔軟に一致条件を定めることができます。このため、これまで自動判定できなかった組み合わせも効率的に照合することができるようになります。」
さらに、伝票起票業務の効率化について、仕訳マスタ機能とスプレッドシート機能の活用が提案された。仕訳マスタを活用すると、定常的な仕訳を自動生成することが可能。また、現状業務でスプレッドシートを活用している場合は、そのアウトプット形式をBlackLine形式に変更して活用できる。
デジタルプラットフォーム導入の展開アプローチ
続いて、デジタルプラットフォームによる成果獲得のための4つの展開アプローチが紹介された。
- 段階的アプローチ:本社での導入・効果確認後、グループ各社へ展開
- ERP刷新と並行した先行導入:BlackLineの効果を早期に獲得
- ERPとBlackLineの同時稼働:ERP刷新による見直しを回避
- 主要グループ会社への同時導入:標準化実現と早期効果獲得を狙う
とくに4つ⽬のグループ会社への同時導入は最近多くみられるケースだと水澤氏は述べ、以下のように締めくくった。
「複数の主要なグループ会社に対して先⾏して同時にBlackLineを導⼊するケースが増えています。このアプローチは標準化実現を主眼においており、会社間の業務⽐較を通じて早期に効果を得ることを狙います。標準化においては、われわれが⽤意している決算タスクテンプレートを活⽤して効率的に進めていくことが可能です。これら4つのアプローチは直近の傾向を踏まえ代表的なケースとしてご紹介しましたが、企業様においては⾃社の状況と優先すべき狙いに従い、適切なアプローチを選択することが重要となります。」