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AIを使いこなす経理人材になるには

経理業務におけるAI活用の現状

デロイト トーマツ グループが、2024年5月にプライム市場に上場する企業を対象に実施した調査(※)の結果は、経理に携わる人にとって少しショッキングなものでした。全体の3割を超える回答者が生成AIの導入によって人員の配置転換を行ったと回答し、そのうち、経理財務部門の人員を削減したという回答が30.1%で、他部門を抑えて最も高い数値だったのです。

経理は「AIによってなくなる業務」のトップグループにいつもランクされますが、AIはスキルが低い人の生産性を高める可能性もあり、近年、経理人材の流動性の高まりが中堅クラスにも及ぶ中で、業務品質の維持や向上にAIが効果を発揮することが期待されます。また、「削減」というと経理の現場からすると否定的に捉えられがちですが、図1のようにデジタル化を推進して、スコアキーパー寄りの業務に携わる工数(人)を削減し、より付加価値高い業務へリソースをシフトさせようとしている経理部門は少なくありません。

ハードウェアの処理能力の進歩とML(機械学習)やAIのような新しいテクノロジーによって、情報処理的な業務における生産性とスケーラビリティは桁違いに向上しており、これを経理業務に活用しない手はありません。

図1.経理財務部門の現状と目指す姿

図1_経理財務部門の現状と目指す姿.pngでは、経理業務におけるAI活用の現状はどうかというと、日本CFO協会が2024年に企業の経理組織を対象に実施した調査では、経理業務でのAI活用について、「AIを活用している(13%)」「活用していない(87%)」と、経理業務におけるAI活用の割合はかなり低い結果となりました。

この要因として「そもそも経理部門に対するデジタル投資の優先度が低い」とか「新しいものにはすぐに飛びつきたくない、同業他社の様子を見てから判断する」といったシステム導入において多くの日本企業に見られる傾向や、「組織や人が保守的で今までの仕事のやり方を変えることに消極的」「経理部門はテクノロジーに対するアンテナが低く、AIの情報に疎い」など、様々な理由が考えられます。

※デロイト トーマツ グループ「生成AI活用に関する意識調査」

AIを活用した経理業務の例

AIを活用した経理業務について、先の日本CFO協会の調査では「データエントリーと転記(42%)」が最も多く、次いで「予測分析やリスク評価(27%)」という結果となり、全体的に、従来からあるテクノロジーをAIで強化しているケース(例.AI-OCRやBI+AIなど)が多いことが確認されました。一方で、問合せ対応や開示文書作成など、従来のテクノロジーでは対応が困難だった領域での活用も一定数ありました。また、「その他」の中には「資本的支出の判定」といった判断の自動化や、「売上債権の入金消込」のようにAIで判断能力を強化することでと処理の自動化が可能になった(もしくは自動化の範囲が拡大した)業務もありました。

図2.経理でAIを活用している業務

図2_経理でAIを活用している業務.png
出典:日本CFO協会サーベイ「経理部門のDX推進に向けた実態と課題2024」
   2023年6月~7月実施、調査母数552人
   ※「その他」の内容を吟味し、他の選択肢に割り振る調整を加味

これまでのテクノロジーでは対応が困難だった領域において、「問い合わせ対応」は、すでにコールセンター業界ではAI導入が生産性の向上に大きく寄与しており、文書の作成や判断の自動化といった高度な専門性を要する領域では、PwC税理士法人と三菱商事が生成AIを活用した経理業務改革の実証実験(※)を行うなど、今後、経理業務においても、こうしたAIならではの活用方法が増えてくることが予想されます。

また、予測分析やリスク評価は前段で引用した図1の「未来志向型の経理財務」では大いに期待されるところですが、分析や評価の対象となるデータの範囲が広くなればなるほど、その効果も大きくなるため、データ(定量情報、定性情報)の準備が非常に重要なポイントとなります。

AIを使いこなす経理人材

「コンピューターやソフトウェアが得意なことコンピューターやソフトウェアに任せ、浮いた余力をヒトにしか出来ないことに注力させる。」

デジタル投資を検討する場面で必ず目にするこの言葉は、「コンピューターやソフトウェア」をAIに置き換えてもそのまま通用します。しかし、AIに置き換えた場合、考慮すべきポイントは2つあります。

  • コンピューターやソフトウェアに任せることも現状では不十分なのに、AIに任せることが果たして出来るのか
  • AIの活用領域が広がる中で、経理業務においてヒトにしか出来ないことは何か

1)コンピューターやソフトウェアに任せることも現状では不十分なのに、AIに任せることが果たして出来るのか

ここでは経理人材に焦点を当てているので、「会社の中で経理部門へのデジタル投資の優先度先度が低い」という話はいったん置いておいて、AIで出来ることはAIに任せるためにヒトはどうすればよいかについて考えると、大きく3つあります。

当然ですが、AIは何が得意で、何が不得意かを知る必要があります。この点においてテクノロジーとしてのAIを詳しく知る必要はなく、AIの概要について解説した本を読み、AIを活用した経理業務向けのシステムやサービスにどんなものがあるか情報収集すれば十分と考えます。ただし、AIもAIを実装したシステムやサービスも日々進化するので、定期的にアップデートすることが重要です。

2つめは、自社の経理業務のあるべき姿と課題を知ることです。日々の仕事をただこなすだけでは、あるべき姿はイメージできませんし、表面的な課題は見えたとしても本質的な課題はなかなか見えてきません。自社において経理部門が果たすべき役割は何か、そのために経理業務はどうあるべきかを明確にし、経理業務の全体を俯瞰して、どこに課題があるかを把握する必要があります。例えば、他社の経理の目指す姿や仕事の進め方などについて情報交換を行い、自社の経理業務を評価することは、自社の経理業務のあるべき姿と課題を知る上で、有効な手段のひとつと言えます。

そして、3つめが、もっとも基本的なことですが、変わることを厭わないことです。

2)AIの活用領域が広がる中で、経理業務においてヒトにしか出来ないことは何か

慶應義塾大学環境情報学部の教授でデータサイエンティスト協会の理事である安宅和人氏が、著書の「シン・ニホン ~AI×データ時代における日本の再生と人材育成~」の中で、データ×AIの力を解き放つためのスキルセットとして、「ビジネス力」、「データエンジニアリング力(※1)」「データサイエンス力(※2)」の3つを挙げています。そして、この3つのスキルは全て必要ですが、1人の人間がすべてのスキルを高いレベルで保持するのは困難なので、それぞれに、どれか1つの領域で高いレベルを保持し、残りの領域は最低限にナレッジを持った人たちがチームを組んで補完し合うことが現実的であると指摘しています。

この3つのスキルの中で経理人材が最も力を発揮できるのが「ビジネス力」です。ビジネス力とは、課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し、解決する力のことですが、この一文を目にして、経理のプロフェッショナリティと重なる部分が多いと感じた経理関係者は少なくないと思います。

図3は筆者がERPベンダーに在籍していた頃に、経理がプロフェッショナリティ(※3)を発揮する上でのERPの有効性を説明するために作成したものです。図で示したように、経理は会社全体の動きを数字で把握できる立場にあり、単に数字をまとめて報告するだけでなく、どこに問題があるかを特定し、課題解決の施策を提示することが期待されています。そして、その役割を果たすために必要な経理のプロフェッショナリティが下段の4つの青枠なのですが、まさにデータ×AIの力を解き放つためのスキルのひとつである「ビジネス力」に類似しています。AIを使いこなす経理人材になるためは、何か特別なことを新たに始めるのではなく、経理人材としてのコアを磨くことが重要なのです。

図3.経理の強みとプロフェッショナリティ

図3.png

※1:データエンジニアリング力=情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力
※2:データサイエンス力=データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする力
※3:左から3つめのプロフェッショナリティは、現在であればFP&Aの要素も加えた「会計理論とファイナンス理論に裏打ちされた課題解決と目標達成のシナリオ作り」が、より適切かもしれません。

さいごに

「経理はもっと、進化できる」

弊社のホームページの会社概要やイベントのタイトル等でたびたび、この言葉を引用しています。ダーウィンの進化論に関連した有名な言葉に「強いものが生き残るのではない。変化に対応できたものが生き残る」という言葉があります。これを自分や自分がいる組織に当てはめたときに、現状のまま生き残っている姿ではなく、生産性高く仕事をし、ビジネスへの貢献の手応えを感じ、仕事以外でも充実した時間を過ごす、進化した自分(組織)を想像してみてください。テクノロジーが全てを解決するわけではありませんが、テクノロジーが進化を大きく後押しすることは間違いありません。「経理の現場はデジタル化が進んでいない」は、同時に伸びしろがたくさんあることを意味します。先人の知恵(先行企業の経験)も参照しながら、人も組織も、進化に向けて帆を上げましょう。ブラックラインはその進化を全力でサポートしたいと、強く願っています。

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※本ブログ記事は、ITmediaビジネスONLINE「変革の財務経理」への弊社寄稿「AIに仕事を奪われ始めている。では、生き残るため何が必要か?」を加筆修正しています。

<ライター>

yakata.jpgブラックライン株式会社
ファイナンシャルエキスパート
屋形 俊哉

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