恒久的施設(PE)
恒久的施設(PE)とは何か?
恒久的施設(Permanent Establishment: 以下、PE)とは、一般に事業を行う一定の場所等をいい、国際課税では、「PEなければ課税なし」という基本ルールがあり、原則として国内にPEがなければ、その国の税務当局は企業の事業所得に課税することはできません。
しかし、PEの定義や概念は各国の税法によって異なるため、日本の法律ではPEに該当しなくても、海外ではPEに該当する場合がありますので、注意が必要です。
- 子会社は、親会社とは別の企業であるため、通常はPEに該当しません
- 固有施設を有する場合であっても、その活動が情報収集や市場調査などの準備的・補助的活動のみである場合は、PEに該当しません
- 国内にPEが無く、外国法人が利子・配当・使用料等の投資所得を受領する場合は、所得税の源泉徴収だけで国内の課税関係が完結します(PEの対象となる所得は事業所得)
PEの区分
PEの範囲は、国内法、租税条約およびOECDモデル条約にそれぞれ規定があり、国内法においては次の3つに区分されています。
1)支店PE
支店、事務所、工場、出張所、倉庫、作業場など。
資産を購入したり保管したり展示したりするだけの場所はPEには含まれませんでしたが、平成30年の税制改正により、保管・展示などを目的とした施設でも、その活動が事業遂行に重要な場合は、PEに認定するとされました。
2)建設PE
建設工事や据付工事、組立等の建設作業などの現場で1年を超える期間存続するもの。
3)代理人PE
非居住者のためにその事業の契約を結ぶ権限があり、その権限を常習的に行使する者や、商品等の資産を保管し、顧客への引き渡しを行う者、あるいは注文の取得等の重要な部分を行う者。
外国法人等が日本国内で事業を行っていても、日本国内にPEを有していない場合には、その外国法人等の事業所得は日本で課税されることはありませんが、PEの存在が認定された場合、日本を源泉とする所得のすべてが課税対象となる「総合主義」に基づく課税が行なわれます。
海外税務当局によるPE認定のリスク
国内と海外とはPE認定の範囲が必ずしも同じではありません。特に新興国においては、課税権の拡大を目的に、PE認定の範囲を拡大解釈する傾向があります。また、その課税が租税条約に適合しない場合は、日本での外国税額控除の適用を受けることができず、二重課税となるリスクもあります。海外の税務当局によるPE認定の代表的な例としては、以下の3つがあげられます。
1)現地子会社に対するPE認定
現地子会社が親会社から独立して業務を行っているにもかかわらず、当該子会社は事業リスクをとっておらず、親会社の単なる取次業務を行っているに過ぎないとして、親会社のPEであると認定されるケースなど。
2)現地駐在所に対するPE認定
情報収集などを目的に、営業活動を行なわない駐在員事務所を海外に設置したにもかかわらず、従業員数が多いなどの理由から、税務調査官が営業活動を行っているとみなし、駐在員事務所をPE認定されるケースなど。
3)役務提供に対するPE認定
親会社からの出向者が現地子会社の業務をしていれば、PE として認定されないと規定されているにも関わらず、出向社員の給与などを親会社が立て替えている場合に、人的役務の提供としてその対価を回収しているとして出向者が我が国親会社の PE として認定されるケースなど。
PEとデジタル課税(BEPS2.0)
近年、経済のデジタル化が進み、グローバルIT企業が巨額な利益をタックスヘイブン(軽課税国)などに移転して、租税回避を図る動きが拡大していることが国際的に大きな問題となっています。
従来の国際課税の原則の下では、外国企業が国境を越えて行う事業活動に課税するには、自国内にPEの存在が必要ですが、デジタル経済の進展はPEを持たないビジネスを可能にし、適切な法人課税がなされないという問題が顕在化しています。
こうした問題に対して、OECDはBEPS2.0プロジェクトの中で、デジタル経済に対する課税のルールについて議論が進められています
PEの関連用語
<租税条約>
租税条約とは、二重課税の排除・軽減や脱法の防止などを目的として、国家間で締結された条約です。日本との間で条約を締結している国は2023年4月現在で81か国あります。(出典:財務省HP)
<居住地国>
法人や個人がどの国に居住しているか、またはどの国に本拠地を置いているかを「居住地国」といい、個人または法人のことを「居住者」ないしは「居住法人」といいます。
居住地国の判定は、個人であれば「183日ルール」、法人であれば「本店所在地主義」や「管理支配地主義」、「設立準拠法主義」などによって判定されます。
<BEPS>
BEPSとはBase Erosion and Profit Shiftingの略語で、グローバルにビジネスを展開する企業等がグループ会社間における国際取引において、国家間の課税制度の違いを利用して、納税額を最小限に抑えることを言います。
<BEPSプロジェクト>
OECDがBEPSに有効に対処するために2012年6月に立ち上げプロジェクトで、2013年に以下の3つの柱と15の行動で構成された行動計画書が公表されています。
①法人税の国際的な一貫性
②税制と経済活動の実態との整合性
③透明性
また、その後のデジタル経済の進展に対処するために
・電子取引を念頭に置いた課税権の市場国への配分
・多国籍企業に対する最低税率の導入
を2つの柱とした新しいプロジェクトであるBEPS2.0が2019年に開始されています。