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エーザイCFO柳氏が語る、ESGと企業価値の実証方法=「柳モデル」とは?

「BeyondTheBlack TOKYO 2021」レポート

財務/非財務の価値を明確にし、自社の企業価値を向上させ、パーパスを実現していく。世界的な水準の会計理論とエーザイという企業での実践を融合させた「柳モデル」は、企業の財務・会計部門の人々に希望を与え、鼓舞するものだ。柳氏の講演からは、今後の日本企業が世界に再度浮上していくためのCFOのミッションが提示されていたといえる。最後に柳氏は、このセミナーの視聴者である経理や財務部門の人たちに対して「皆さんは私の同志」とエールを送った。8月18日から19日にかけてオンラインで行われた「BeyondTheBlack TOKYO 2021」では、基調講演に早稲田大学大学院 客員教授であり、エーザイCFOの柳氏が登壇し、「“柳モデル”によるESGと企業価値の実証 見えない価値を見える化する」と題した講演を行なった。ESG(環境、社会、ガバナンス)経営によって企業の「見えない価値」が顕在化し、企業価値向上につながっていくことが語られた。

「日経平均4万円」実現の前提条件

Yanagi CFO.png早稲田大学大学院 客員教授/エーザイ株式会社 専務執行役CFO 柳良平氏

早稲田大学大学院 客員教授/エーザイ株式会社 専務執行役CFO 柳良平氏が提唱する“柳モデル”とは、ESG(環境、社会、ガバナンス)経営による企業価値の評価方法。当初、「柳モデル(笑)」と謙遜気味に自称していたが、ハーバードビジネススクールなどの専門的な機関、ブラックロックなどの世界に名だたる資産運用会社がその方法論に着目し、正式名称として使われたことで、柳氏自身もその名称を採用したと語る。

はじめに柳氏は、企業価値の評価指標としてのPBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)の観点からESG経営の見方を示す。PBRとは、会計上の簿価純資産であるバランスシートに出ている企業価値の何倍の時価総額になっているのかを示すものだ。

簿価に比べて、企業価値が高いということは、「企業の見えない価値」が高いということである。その見えない価値とは、「知的資本」「製造資本」「人的資本」「社会関係資本」「自然資本」などの非財務の資本。そして、「この見えない価値が市場付加価値全体に占める割合は、一昔前と比べて激変している」と柳氏は指摘する。

しかしながら、日本は経済大国でありながら、ながらく企業のPBRは低い。そして企業の非財務の「見えない価値」はアメリカやイギリスに比べて低く評価されているということだと柳氏は語る。

「自然環境や人を大切にしてものづくりにも長けている日本企業が過小評価されているのが残念です。日本企業はYDK、やればできる子なんです(笑)」と述べる。柳氏は日本企業の「見えない資産の価値」を市場にきちんと伝えていければ、「日本企業の平均 PBR は2倍にはなる」と確信し、令和の初日のテレビ番組では「日経平均=4万円」説を唱えたという。ただしそのためには条件がある。それは「日本企業がESGへの取り組みの価値を証明すること」だという。

柳モデルは4つの要素のトータルパッケージ

日本企業は潜在的なESGの価値を持ちながらも英米に劣後している。この状況を突破するためには、日本企業のCFOが「見えない価値を見える化」する努力が必要だ。そのために、エーザイが実践しているのが「柳モデル」に基づく取り組みだ。それは、以下の4つの条件を満たすトータルパッケージだという。

  • ESGと企業価値を結びつける概念フレームワークの提示
  • ESGと企業価値の「正の相関」を示す実証研究のエビデンス
  • 統合報告書での企業のESGの活動に関する具体的開示
  • 投資家とのエンゲージメントの構築

そして、柳氏はエーザイのESGと企業価値の実証研究をおこない、重回帰分析によって証明を行った。自社の企業価値創出に貢献する「ESG KPI」を明らかにし、エーザイのESG KPIがそれぞれ5〜10年の遅延浸透効果で500億円から3,000億円の価値を創造することを示した。

こうした実証研究は「知る限り世界で初めて企業のESG と企業価値の関係を統計学的に証明した事例」だと柳氏は胸を張る。

しかし、そのモデルの成立の条件はあくまで長期視点によるものだとも柳氏は付け加える。短期的なEPS上昇を期待するヘッジファンドは、研究開発費や人件費の削減を要求する。この要求への対応は長期では企業価値を毀損しかねない。そのためにも長期的なパートナーの選定や機関投資家や市場との対話の積み重ねが必要とされる。そのためにも綿密な統合報告書の作成や、年間数百回の投資家とのミーティングを行っている。

パーパス(企業理念)への取組みを証明する

エーザイの統合報告書には、柳モデルによるこうしたESG経営による企業価値の創出のエビデンスが詳しく掲載されている。統合報告書とは、財務と非財務の両方の視点から企業価値を一貫した形で報告するものだ。そして統合報告書に織り込まれているもうひとつの重要な要素が、エーザイのパーパス(企業理念)だ。

エーザイの企業理念は「ヘルスケアの主役が患者様とそのご家族、生活者であることを明確に認識し、そのベネフィット向上を通じてビジネスを遂行すること」を掲げる。これを一言で表現したのが**「hhc(ヒューマン・ヘルスケア)」**である。こうしたパーパスから導かれる活動として、途上国への熱帯病の治療剤の無償提供などがある。こうした寄付活動なども、ESG経営では企業価値をもたらすことが証明できるのだ。ESG経営の実証研究は「エーザイのパーパスの証明」だと柳氏は語る。

財務/非財務の価値を明確にし、自社の企業価値を向上させ、パーパスを実現していく。世界的な水準の会計理論とエーザイという企業での実践を融合させた柳氏の講演は、企業の財務・会計部門の人々に希望を与え、鼓舞するものだ。そこには、今後の日本企業が世界に再度浮上していくためのCFOのミッションやビジョンが提示されていたといえる。最後に柳氏は、このセミナーの視聴者である経理や財務部門の人たちに対して「皆さんは私の同志」とエールを送った。

<スピーカー>
早稲田大学大学院 客員教授/エーザイ株式会社 専務執行役CFO 柳良平 氏

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