キャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle:CCC)
キャッシュ・コンバージョン・サイクルとは?
キャッシュ・コンバージョン・サイクル(以下、CCC)は、企業が材料や部品の仕入れの代金を支払ってから、その後、売上の代金を受領するまでの期間のことを指し、企業の資金効率を示す指標として用いられます。通常、企業が顧客に商品を販売して現金を得るためには、材料を仕入れ、商品を製造し、顧客に販売をし、売掛金を回収するというステップが必要です。手許に十分な資金があれば、仕入代金を支払うことができますし、新たな注文に対応するための材料を仕入れることもできますが、資金が不足する場合は借入等によって外部から資金を調達する必要があります。資金の調達にはコストがかかりますし、売上代金を回収するまでの期間が長ければ長いほど、調達コスト(≒借入金利)は膨らみます。したがって、CCCが短ければ短いほど、その企業は資金繰り余裕がある、資金効率の高い企業であると言えます。
CCCはどのように計算されますか?
CCCは以下の計算式で算出し、日数で表されます。
CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数
<具体的な計算例>
・材料を仕入れ30日後に代金を支払った(仕入債務回転日数30日)
・材料仕入れから商品の製造、販売までに50日かかった(棚卸資産回転日数50日)
・商品の販売代金は販売後40日目に回収された(売上債権回転日数40日)
・CCC = 50 + 40 - 30 = 60日
仕入債務回転日数を企業単位や事業単位で計算する場合は以下の計算式で算出します。
仕入債務回転日数=仕入債務残高÷売上原価×365
仕入債務=買掛金+支払手形
棚卸資産回転日数を企業単位や事業単位で計算する場合は以下の計算式で算出します。
棚卸資産回転日数=棚卸資産残高÷売上原価×365
棚卸資産=製品+仕掛品+部品+材料等
売上債権回転日数を企業単位や事業単位で計算する場合は以下の計算式で算出します。
売上債権回転日数=売上債権残高÷売上高×365
売上債権=売掛金+受取手形
CCCを短くするには、どうすればよいですか?
計算式からもわかるように、
・仕入債務回転日数を長くする
・棚卸資産回転日数を短くする
・売上債権回転日数を短くする
ことによって、CCCを短くすることができます。
1)仕入債務回転日数を長くする
仕入債務回転日数を長くするためには、取引先と交渉し、支払条件を変更し、仕入から支払いまでの猶予期間を長くしてもらうことが最も効果的ですが、支払の猶予期間を長くすることは、取引先から見れば資金繰りを悪化させるため、支払条件の変更は容易ではありません。強引な払条件の変更は取引先からの信頼を失い、対外的な信用を損なう恐れもあります。
2)棚卸資産回転日数を短くする
棚卸資産回転日数を短くする方法は大きく2つあります。
・無駄に多く買わない
材料や商品の大量仕入れは購入単価を下げる効果が期待できますが、その分、余計に棚卸資産が増加します。販売計画や生産計画の変更などによって、仕入れた材料や商品が余るリスクもあります。必要なタイミングで必要な量を購入することを基本に、購入単価低減の効果とのバランス見ながら調達活動を行う必要があります。
・生産や物流に要する時間(リードタイム)を短くする
生産工程の見直しや物流手段やルートの変更などでリードタイムを短くすることで、工場や物流の現場にとどまっている仕掛品や製品のボリューム(棚卸資産残高)を低減させることができます。工程や物流の変更は時間がかかるかもしれませんが、一度、見直せば大きな効果を期待することができます。
3)売上債権回転日数を短くする
売上債権回転日数を短くするためには、販売取引の支払条件を変更し、販売から入金までの猶予期間を短くすることが最も効果的ですが、仕入債務回転日数と同様に容易ではありません。与信管理を適切に行い、取引を始める段階で安易な支払条件を適用しない、回収リスクを抑制し不良債権の発生を最小化する、などの地道な対策を着実に実行することが大切です。
CCCを短くすることは容易ではありませんが、CCCがマイナスになっている企業も一部には存在します。特に製造業では最初の材料や部品を仕込み、商品を製造するため、ほとんどの企業でCCCはプラスになりますが、AppleやDellなどは、ファブレス生産や入金によって受注を確定させ、その後に商品を組み立てる生産方式などを導入し、製造におけるオペレーションを徹底的に合理化することで、CCCのマイナスを実現しています。
CCCがマイナスになることで企業の手元資金には大幅に余裕ができ、その余剰キャッシュを研究開発、人材、新規事業立ち上げ、M&Aなどの新たな成長のための投資に回すことが可能になります。
FAQ(よくある質問)
CCCは、なぜ重要なのですか?
CCCは、企業の資金効率を示す指標として多くの企業で重要視されています。
かつて日本企業はメインバンクや取引先と株式を持ち合い、また、必要な資金はメインバンクからいつでも借りることができたため、企業の経営状況を示す指標として売上や損益などのPL項目が最重要視され、キャッシュフローはあまり重視されませんでした。しかし、1990年代に入り、株式を持ち合う会社間の閉鎖性・不透明性の問題や、バブル崩壊による企業業績の悪化、不良債権の発生による銀行の経営力の低下によって、銀行を中心に株式の持ち合いは解消され、企業はこれまでのように銀行を頼ることはできなくなりました。
その結果、企業は、運転資金は当然として、次なる成長投資のための資金も銀行からの借入ではなく、自らの事業で稼ぎ、資金が不十分な場合は、株や社債によって市場から資金を調達することの重要性が高まり、キャッシュフロー経営の巧拙(資金効率の良し悪し)が企業経営に及ぼす影響が大きくなりました、
また、IFRSや日本基準のコンバージェンスなど会計のグローバル化(≒海外投資家の影響力の増大)の動きも、従来のPL中心の日本的な考え方から、BS重視の欧米的な考え方へのシフトもキャッシュフローの重要性を高める大きな要因のひとつとなっています。利益が同じ会社でもCCCが長い企業よりも短い企業の方が手許資金は大きく、その分、新たな成長投資に資金を充てることができます。また、手許資金が大きければ、景気減速や異常気象、地政学リスクの増大などによる急激な売上高の変動にも耐えることができます。CCCは成長投資に必要な資金を生む能力やレジリエンスの有無を示す重要な指標なのです。