与信限度額
与信とは?
顧客に商品やサービスを販売する際に、現金販売の場合は与信が問題になることはありませんが、信用販売(いわゆる掛け売り)を行う場合は、商品やサービスを販売してから代金を回収するまでの間は取引先を信用する(信用を付与する)必要があり、これを“与信“と言います。
与信限度額とは何か?
与信限度額とは、企業が信用販売を行う際に設定する取引の上限金額のことです。企業は取引先ごとに与信限度額を設定することで、取引先の倒産などによる売掛金の未回収リスクを一定金額以内に抑えることができます。与信限度額と同様の意味の言葉として与信枠がありますが、一般的に与信限度額が企業間の取引において用いられるのに対して、与信枠は個人のクレジットカードの利用額の上限を指す場合があります。
与信限度額の設定方法は?
与信限度額の設定では、与信に関する社内規定の整備や取引先の情報収集や分析が必要です。具体的には、以下のような流れで与信限度額を設定します。
①与信取引の基準を定める:与信取引の社内の基準を明確にするために、社内格付け表を作成します。社内格付け表の作成では、取引先の企業規模や社歴、経営状況、支払能力などを評価基準にします。
②取引先の情報を収集し、分析する:公開されている情報に加えて、担当営業による対象企業の周辺での鮮度の高い情報収集も有効です。また、有料の信用調査サービスの利用も検討する必要があります。
③分析結果を社内格付け表に照らして与信限度額を設定する:具体的な限度額の算定には大きく以下の3つの基準があります。
・自社の売上債権を基準とする場合
与信限度額 = 売上債権 x 一定割合 x 社内格付けウエィト
・取引先の純資産を基準とする場合
与信限度額 = 取引先の純資産 x 一定割合 x 社内格付けウエィト
・取引先の仕入債務を基準とする場合
与信限度額 = 取引先の仕入債務 x 一定割合 x 社内格付けウエィト
実際の運用に際しては、どれかひとつの方法を採用するのではなく、複数の方法を組み合わせて限度額を決定します。
④必要に応じて、与信限度額を見直す:与信限度額は一度設定したら終わりではありません。取引の継続に伴って取引金額が増額する場合もありますし、取引先および自社の経営状況が変わる場合もあります。定期的に与信リスクを審査し、必要に応じて与信限度額を再設定する必要があります。
与信管理はなぜ重要か?
適切な与信管理を行っていないと、取引先の経営状況の悪化等により売掛金の回収の遅延や回収不能になるリスクが高くなり、企業の業績や資金繰りへの悪影響は避けられません。
業績の観点で言えば、例えば1,000万円の売掛金が回収不能になった場合に企業が被る1,000万円の損失を取り戻すにためには「1,000万円の売上高」ではなく「1,000万円の利益」が必要であり、利益率 を10%とすると、1億円の売上高を追加で上げなければ、損失を補填することができません。
資金繰りの点においては、入ってくるはずのお金が入ってくるべき日に入金されないと、取引先への支払いや銀行からの融資の返済などに支障をきたし、損益計算書上は黒字であっても、最悪の場合、倒産する可能性もあります。また、売掛金の回収遅延が頻繁に発生すると、債権回収や事後処理に対するスタッフの負担が増加するだけでなく、企業の管理能力を疑われ、対外的な信用力の低下を招き、企業活動において大きな障害となります。ただ、与信管理が厳しすぎる場合にはビジネスの機会を逃してしまう可能性もあり、損失回避だけでなく、利益最大化の観点においても適切な与信管理は重要です。
そして、与信限度額の設定は与信管理業務の中でも極めて重要な部分にあたり、取引開始時に設定した与信限度額が適切かどうか随時検証を行うことが重要です。取引先の経営状況や社会情勢、市場が常に変化を続ける中で、一度決めた与信限度額を踏襲し続けることは、知らず知らずのうちに売掛金の焦付き、さらには自社の連鎖倒産のリスクまでをも増加させることになりかねません。
FAQ(よくある質問)
与信限度額設定のポイントは何ですか?
与信限度額の設定を適切かつ円滑に行うポイントとして以下のようなものがあげられます。
<与信管理の専任組織を作る>
与信管理には取引先の情報収集からランク付けなどさまざまなプロセスが存在します。取引先との距離の近さから与信管理を営業部門の業務のひとつとする企業もありますが、与信管理のガイドラインをしっかりと定め、きめ細やかな調査や情報収集を行うには、独立した与信管理専門の部門を作ることが理想です。
しかし、独立した部門を新たに設けるには、人材も必要になりますし、コストもかかります。また、与信管理に精通したスキルを持つ人材を確保することが困難なケースもあるため、多くの企業では独立した部門を設けることが難しいのが現状であり、専任組織とまではいかなくても、信用調査の外部サービスなどを利用しながら効率的に精度の高い与信管理業務を行う組織を、営業取引に直接には関与しない間接部門の中に設けるなどの方法が考えられます。
<幅広くタイムリーな情報収集を徹底する>
取引先の情報収集は、一面だけの情報に偏らず幅広く集めることが重要です。情報収集の方法には以下の4種類があります。
・外部調査:外部調査とは、外部の情報をもとに調査を行うことです。Webサイトでの情報収集や登記情報を調べる以外に、調査対象会社の取引先に問い合わせるのもひとつの方法です。
・内部調査:内部考査とは、これまでの取引履歴や営業部門の従業員などからの聞き取りなど社内に蓄積している情報をもとに調査を行うことです。
・直接調査:直接調査では、調査対象会社に直接訪問あるいはメールや電話で直接問合せを行います。
・依頼調査:依頼調査とは、調査会社などに依頼して調査を行うことです。
また、情報収集は鮮度も大切です。これらの調査方法を組み合わせて、定期的に実施することで、有効性の高い情報を得ることができます。
<バランス>
与信限度額は販売代金の未回収リスクを抑えるために設定しますが、慎重になりすぎて限度額が低すぎると、売上高に悪影響を及ぼします。かといって、売上を重視して、リスクの高い限度額を設定すると、会社の資金繰りが危うくなるリスクもあります。限度額の設定に際しては、多面的な情報収集と分析をもとに、複数の設定方法を組み合わせながら、自社の今のポジションがどうなっているのか、どれだけ取引の幅を広げても問題がないのかなどの状況に応じたバランスのとれた判断を行うことが重要です。