修正仕訳と決算整理仕訳
修正仕訳とは何か
修正仕訳とは、過去に記帳された取引の訂正や修正を行う、特定の種類の仕訳入力のことです。
取引の発生に伴い、会計期間を通して継続的に仕訳入力が行われます。修正仕訳は、一般的に決算における照合プロセスの一環として実施されます。これは、勘定照合などで発見された誤りを訂正するために修正値を入力し、帳簿を締める前に残高を確定するための会計処理です。
修正仕訳の種類
修正仕訳は様々な目的で入力されます。ある取引の仕訳入力で生じた誤謬や間違いを訂正するために実施されることもあります。こうした仕訳の訂正は、基本的には不正確な入力、計算ミス、取引の見落としなどに適用されます。また、減価償却、利息、前受収益など、通常の仕訳計上のタイミングでは正確に計上できない、または全額を計上できない特殊な取引を記録するために実施されることもあります。こうした取引は、元の取引が異なる会計期間中に発生または完了した場合であっても、一定のルールに基づいて算出された金額が当期に計上されます。
後者のような修正仕訳は一般に決算整理仕訳と呼ばれ、次の3つの種類があります。
1)見越
利息、家賃、収益、税金、水道光熱費などのうち、当期中に支払は行われていないが、すでにサービスの提供を受けており、支払の義務を負っている、もしくは入金されていないが、すでにサービスを提供しており、金銭を受領する権利を持つような取引は、当期に費用や収益を見越し計上します。
2)繰延
前受収益、保険料、前払い家賃などうち、当期中に支払は行われているが、まだサービスの提供を受けていない、もしくは入金されているが、まだサービスを提供していない取引の場合、翌期以降に費用や収益を繰延計上します。
3)見積
資産や負債、収益や費用の金額算定に不確実な要素がある場合に、決算時に入手可能な情報をもとに合理的に金額を算出することを会計上の見積といい、売掛金の貸倒引当金や固定資産の減損損失などが該当します。また、固定資産の減価償却は日本基準では会計方針に該当しますが、国際基準では会計上の見積りとして処理されます。
決算整理仕訳の例
見越および繰延の決算整理仕訳の具体的な例を紹介します。
<繰延計上>
保険料を支払う際、多くの企業は、割引を受けるために半年または1年分前払いしています。保険料を支払った翌月以降は、月々の保険料を実際に支払うことなく保険のサービスを受けることになるため、費用を翌月以降にも繰延計上する必要があります。そのため、以下のように保険料は支払時には前払費用として資産計上し、決算時に当期分の金額を費用振替します。
・支払時の仕訳 前払費用(支払金額)/現預金(支払金額)
・決算時の仕訳 保険料(当期計上分)/前払費用(当期計上分)どんな収益も、関連する費用の記録なしに計上することはできません(費用収益対応の原則)。前払保険料のような繰延費用に該当する取引の場合、この原則に従って毎月の保険料費用を正しく計上するために、前払保険料の総額を対象となる月数で割り、各会計期間中に修正仕訳を入力します。保険料と同様に一括して前払いする取引に家賃などがありますが、この場合も同様に、繰延費用として決算整理仕訳が行われます。
まだ提供していないサービスの代金が、事前に入金される場合もあります。この場合、最初に入金の総額を前受収益として負債に仕訳を計上します。その後、サービスの提供を受けた会計期間に負債を収益に振替える決算整理仕訳を入力します。
<見越計上>
当期にサービスの提供を受けたが、支払が翌期以降になる場合、当期に費用を見越計上し、同時に未払費用を計上します。翌期以降、請求に従い支払を行うタイミングで決算整理仕訳を入力します。この修正仕訳で未払費用から実際に支払われた額が差し引かれ、請求額全額が支払われた段階で未払費用はゼロになります。同様に、取引先に提供したサービスの代金が当期に入金されていない場合、未収収益を計上する必要があります。取引先が請求額の全部または一部を支払った時点で、決算整理仕訳を入力し、未収収益から該当する金額が差し引かれます。
修正仕訳の入力を効率化するために
修正仕訳の入力業務を効率化するポイントは2つあります。
1)修正仕訳の入力および承認プロセスを効率化する
2)修正仕訳の件数を削減する
1)修正仕訳の入力および承認プロセスを効率化する
業務の熟練度を上げることである程度の効率化と精度の向上は期待できますが、手作業による仕訳計上の効率化には限界があるため、効率化で大きな成果をあげるには可能な限りシステムを活用し、自動化を図ることは避けられません。Excelを使うことでパターン化された仕訳計上は効率化されますが、業務の属人化や内部統制の観点で問題あるため、内部統制の担保されたシステムで、修正仕訳の入力と承認プロセスをデジタル化することが求められます。
例えば、固定資産の件数が多い企業では、ほとんどの企業が固定資産管理システムを導入して減価償却費を自動計上しています。同様に、前払費用の償却や仮払金などの仮勘定の整理仕訳を自動化するサービスも現在では提供されています。
また、修正仕訳の承認プロセスを電子化することで、承認の漏れや遅延を防止し、さらには取引の内容によってはルールベースでの自動承認も可能となり、承認行為そのものを削減することができます。
2)修正仕訳の件数を削減する
前述の通り、決算整理仕訳の入力を自動化することで、手作業による修正仕訳の入力が削減され、手作業による誤りの解消によって、訂正のための修正仕訳の件数が削減されます。
同様に、日常業務における仕訳入力も可能な限り自動化することで、訂正のための修正仕訳の件数を削減することができます。
ERPや会計システムには日常業務での仕訳入力を自動化するための様々な機能が用意されています。また、売掛金や未収入金の入金消込のようにERPや会計システムの標準機能では自動化が難しい業務においても、消込の仕訳入力の自動化を促進する柔軟性の高いソリューションやサービスも現在では提供されています。
こうしたシステムやサービスを活用することで、日常業務の効率化だけでなく、決算業務の効率化も同時に実現することが可能となります。
※BlackLine機能概要:仕訳入力の一元化、自動化、合理化
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FAQ(よくある質問)
なぜ修正仕訳が重要なのですか?
企業は、次のいくつかの理由から修正仕訳を入力します。
- 誤りや漏れを訂正し、会計記録の正確性を守る(一般的な修正仕訳)
- 当該会計期間中には発生しないが、当期の残高に影響を与える取引や活動を正確に記録する
- 費用と収益を正確に対応させる(費用収益対応の原則)
- 会計上の見積を要する取引の金額を正しく計上する
費用収益対応の原則とは?
費用収益対応の原則では、当期の損益を算出する際に収益と費用の対応を正しく反映させるために、金銭の授受の時期には関係なく、当期に発生した費用を当期の収益に該当とする部分と翌期以降の収益に該当する部分とに区分し、計上することが求められます。
固定資産の減価償却も同様の考え方です。
例えば、ある企業が10年間使用できる製造設備を購入した場合、その設備の購入費用は、10年間の耐用年数の間、各会計期間において均等に減価償却費として計上されます。これにより、企業は、耐用年数にわたってその設備が生み出す収益に対して、設備の費用を均等に対応させます。
この費用収益対応の原則は、会計の発生主義の原則に基づいて適用されます。