前払費用の償却
<目次>
・前払費用の償却とは何か
・前払費用の償却の目的
・前払費用の償却の手続き
・前払費用の償却の業務上のポイント
・FAQ(よくある質問)
前払費用の償却とは?
前払費用の償却とは、資産計上されている前払費用を費用収益対応の原則にしたがい、費用から得られる便益が実際に発生する各会計期間に計上する処理です。
前払費用はサービスの期間に応じた料金を事前に一括で支払う費用で、保険料や家賃などの契約で数カ月分あるいは1年分の費用を一括で支払う場合などが該当します。この場合、一括で支払われた金額は、一定の契約に従って継続してサービスの提供を受ける場合に、将来に提供されるサービスに対し支払われた対価であり、費用収益対応の原則に従い、支払時には貸借対照表の資産の部に計上し、次期以降、サービスを受ける会計期間に費用化します。この費用化の処理のことを前払費用の償却と言います。
例えば、企業が1年分の保険料を一括で支払う場合、前払費用の償却とは、その保険の月々の保険料を算出し、支払時に資産計上した前払費用を、その年の月次の会計期間に取り崩す(費用化する)処理を指します。
また、前払費用には流動資産として計上されるものと、長期前払費用として固定資産(あるいは非流動資産)に計上されるものがあり、例えば、3年契約の自動車保険などの場合、サービスの提供が決算期から1年を超える部分の保険料は長期前払費用に該当します。
前払費用の償却の目的
企業が月次決算を行う場合、1年分を一括でなく毎月支払った場合の費用がいくらになるか、確定させる必要があります。
月々の費用は特殊な場合を除いて、通常は前払費用の総価額を、サービスの提供を受ける期間の月数で割ります。数式で表すと「毎月の費用=支払総額÷月数」となります。この計算式で算出された月々の費用(償却額)を、サービスの提供を受ける各会計期間に計上します。
償却を毎月実施することで、企業はより正確な経営状態や財務状況を早期に把握することができます。
前払費用の償却の手続き
前払費用の償却には、いくつかの手順があります。まず支払時には全額が前払費用として資産計上されます。続いて、決算時に当期分の費用を資産から該当する費用勘定(保険契約であれば保険料、事務所の賃貸契約であれば賃貸料など)に振替えます。月次決算を実施している企業であれば、当期分の費用を月割りで計上します。翌期には前払費用の残額を費用計上し、サービスの提供が終了したときに前払費用はゼロになります。
長期前払費用の場合は、決算時に流動資産に該当する部分を長期と短期に区分する必要があります。例えば12月決算の会社が契約期間3年・保険料18万円で9月補償開始の自動車保険を契約した場合、決算時の会計処理は以下のようになります。
・当期分の保険料として 20,000円(= 180,000/36 x 4) を費用計上
・決算期から1年以内のサービスに該当する金額 60,000円 を前払費用として計上
・残額の100,000円を長期前払費用として計上
前払費用の償却の業務上のポイント
前払費用の償却における業務上のポイントとして以下の4つが上げられます。
1)正しい勘定科目で処理する
2)正しい金額で漏れなく処理する
3)手続き通りに処理されていることをチェックする
4)可能な限り自動化する
1)正しい勘定科目で処理する
前払と同様に支払時に資産計上し、後に費用化する勘定科目として前払金や繰延資産があります。また、金額によっては支払時に全額費用処理が可能なものもあります。まずは前払費用に該当する取引か否かを正しく判定することが最初のポイントです。そして、前払費用を費用化する際には取引の内容に応じた費用勘定を確定します。経理担当者は独自の判断で処理することがないよう、前払費用の計上ルールを明確にすることが大切です。
2)正しい金額で漏れなく処理する
企業によって差がありますが、前払費用に該当する取引の件数は数百件を超える場合もあります。決算の際にこれらのすべての取引に対して、費用化の処理を、正しい勘定科目で正しい金額(償却額)で行う必要があります。
多くの企業が前払費用の管理にExcelを使っており、取引ごとにサービス期間、資産計上額、毎月の償却額、毎月末の残高などを管理し、この管理表をもとに償却仕訳を入力していますが、前払費用の件数の多い企業では決算を早期化する上で課題のひとつとなっています。
3)手続き通りに処理されていることをチェックする
前払費用の償却が決算に与える影響は決して軽微なものではありません。正確な企業業績の把握や財務諸表の信頼性の観点から、手続き通りに処理されているかをチェックする体制の整備も求められます。
4)可能な限り自動化する
2)に記載の通り、前払費用の償却は資産計上時に毎月の償却額と費用勘定を確定すれば、定例定型の仕訳としてシステムによる自動処理が可能です。BlackLineのような決算プラットフォームでは、前払費用の自動償却、電子承認、前払費用の管理マニュアルや取引に関連するドキュメントの一元管理、償却処理及び承認のログ管理など、前払費用の管理の効率化と内部統制を強化する機能が用意されていますので、前払費用の件数が多い企業では決算の早期化や業務負荷の軽減に非常に有効です。
FAQ(よくある質問)
Q1.前払費用の償却には、どんな例がありますか?
一般的な例として家賃があります。例えば契約期間1年で月々の賃借料が100,000円の事務所フロアの賃貸契約において、家賃1年分を前払する場合は以下のような会計処理が行われます。
支払時 前払費用 1,200,000/ 現預金 1,200,000
月次決算 フロア賃借料 100,000/ 前払費用 100,000
資産計上された前払費用は、毎月100,000円が取り崩され(費用に振替えられ)、12カ月が過ぎた時点で残高がゼロになります。
保険料の事前の一括払いなども前払費用に該当しますが、一定の契約に従って継続的にサービスを受ける場合に、まだサービスを受けていない部分に対しての支払う費用が前払費用として扱われます。サービスの提供が翌期以降となる事前の支払でも、継続性がないものは前払費用には分類されません。例えば、ホテルを予約した際の予約金などは、サービスの提供に継続性はないため、前払費用ではなく前払金として処理されます。
Q2.企業はなぜ、前払費用を償却するのですか?
企業は、費用収益対応の原則に基づき前払費用を償却します。これは、実際に資金が動いたかどうかに関係なく、取引が発生した時点で収益とそれに関わる費用を、同じ会計期間に計上すべきだという原則です。
例えば弁護士の着手金として1年分の報酬を支払う場合、月々の報酬に相当する額を、その年の12カ月の会計期間それぞれに費用として計上します。これにより企業は、弁護士報酬に係る費用を、法律業務の便益を受ける各会計期間に均等に適用する(対応させる)ことができます。
費用収益対応の原則は、会計の発生主義に基づき適用されます。
Q3.前払経費の償却には、他にどんな計算方法が使われますか?
各会計期間に生じる便益が均等ではないため、前払経費が均等に償却されない場合もあります。例えば保険商品によっては、契約期間の開始時と終了時で保障額が異なるものもあります。この場合、各会計期間の費用の違いが償却額に反映されます。
Q4.BlackLineによる前払費用の会計処理の効率化
前払費用の計上や月々の費用への振替、関連するドキュメントの管理など、前払費用の管理がBlackLineによってどのように効率化され、内部統制が担保されるか、デモをご用意しておりますのでぜひお問い合わせください。